雨宮骨董品店

12 12, 2010 | Posted in 雨宮骨董品店 | Thema 小説・文学 » オリジナル小説

1 Comments
今週は公開しないといっていたのですが、思いつきで一作書けましたので公開したいと思います。
最近寓話調のお話が多いような気がします。もうちょっと明るい作品も書きたいのですが、好きゆえの暗め恐ろし系の一作です。
字数は3300ほど。

今のところ連作の予定はありませんが、そこは追々決めていきたいと考えています。

【あらすじ】
とある不思議な骨董品店。
ある日、とある噂を聞きつけ青年が訪れる。
やる気のない雨宮鈴音のおくる、恐ろしくも不思議な物語。


雨宮骨董品店

 大陸の西のとある都。西洋建築が群がる歴史ある街並の中、一際異質な木造家屋があった。路地の裏、目立たない場所にポツリと、まるで産まれてくる腹を間違えたように孤独に存している。
 人々は皆、そんな建物には見向きもせず通り過ぎていく。ジグソーパズルのひとかけらだけ、どこにもはめることができないような奇妙な光景に、しかし誰も興味を示さなかった。

『雨宮骨董品店』

 横長の大きな木の看板に、右からそのように刻まれた店。おそらくこの街で、店の名前を読むことができる者はいないだろう。この店の店主を除いて。

     *

 ある日、一人の青年がこの店を訪れた。彼はとある噂を聞きつけ、今にも踊りだしそうな軽快な足取りで店内に踏み入った。
「いらっしゃい」
 店の奥から、いかにもやる気のなさそうな声がした。顔立ちはかつて青年が本で見た、東の国の女性と似ている。それにすこしこちらの血が混じったところだ。赤茶色の縁の丸眼鏡の奥にのぞく双眸は、知的であり、どこか人を寄せ付けない鋭さがにじみでていた。
 青年は特に気にせず、店内を物色する。
 店はほこりがたちこめ、鼻がむずむずするほどの有様だ。よほど掃除嫌いなのか。もしくは雰囲気作りだろうか。
 たしかにこの店には、いかにもなにかありそうだという気配が漂っていた。古めかしい木の棚には、無造作に奇妙な品々が並んでいる。誰がかけるのかもわからぬほどに大きな仮面、本物の子供のように精巧に作られた人形、すべてが生命を宿らしているようにすら感じられる。彼はそれらに見咎められているような気がして、さっさと目的の物を探そうと、視線をあちこちに走らした。
 店の角、ちょうど店主から一番離れたその一角に、小ビンを並べた棚があった。どれもラベルが貼られていない。
「あの、このビンには何が入っているのですか?」
 彼は振り向いて店主に問いかける。
「へぇ、そいつに興味があるのかい」
 黒いカラスような瞳で青年を見やり、店主は口の端をあげた。彼女は青年の傍にくると、たくさんあるビンのうちから一個を手に取った。透明なガラスのビンの中に、血のような紅の液体が詰まっている。
「あんたが欲しいのは、この不死の薬かい?」
「なんでわかるんですか?」
「ふふ、勘だよ」
 青年は訝しげな顔をしながらも、目的の物にありつけた喜びが勝ったのか、すぐに勘定を求めた。
「言い値ですか? どれくらいなら買えるんですか?」
「その財布置いていきな。あたしは別に逃げたりしない。効果に不満があったら殴りこみにきな」
 青年ははじめて誕生日の贈り物をもらった子供のようにはしゃぎ、財布を彼女に渡した。来たときと同じく、踊るような足取りで店を後にした。
 青年の姿は既に遠く消えてしまった。店主は思い出したようにつぶやく。
「ああそうだ。そいつには副作用が……ってもう行っちまったか」

     *

「鈴音さん大変だ!」
 雨宮骨董品店に老人が騒々しく駆けつけたのは、例の青年が薬を手に入れてから数ヶ月経った後。
「なんだい、カロス!? うるさいね」
 鈴音と呼ばれた店主が、うっとうしいハエに向けるような目で、カロスと呼ばれた老人をにらみつけた。
 カロスは珍しい物を見つけてはこの店に売りつける常連だ。彼はトレジャーハンターと自称しているが、鈴音からすればただの墓荒らしだ。無論、直にそのことを言ったりはしないが。
 カロスは手に持っていた新聞を、突きつけるようにして鈴音に見せた。彼が指差した記事にはこうある。

『二十歳前後の男が無差別殺人に及ぶ。32人銃殺。警察は射撃するも一切傷をつけることはできなかった。青年はなおも逃走中』

「へぇ、そいつは物騒だね」
「物騒だねって、あんたこの事件に関わってるんじゃないのかい? ほら、あの前に自慢していた不死の薬でも与えたんじゃ」
 鈴音は嘲笑し、吐き捨てるように言った。
「だからなんだっていうんだい。あたしゃ客が望んだものを売る。それを使ってどうなろうがあたしの知ったことじゃぁないね。大方死なないことをいいことに大暴れしたってところか。これだから男ってのは嫌いだよ」
「もしこの店に押し付けてきたらどうするんだ? 相手は死なないんだぞ」
 カロスが言った。鈴音は心底あきれたように深い溜息をつく。
「死なないというのは嘘だよ。人は死ぬ、どうしたってね。それがどんな死に方であれ、逃げることなんざできない」
「じゃあ、なんで狙撃されてもピンピンしてるっていうんだ。身体を蜂の巣にされてもまだ動いてるんだぞ」
 鈴音は口の端を上げ笑った。なにがおかしいのかカロスには理解できなかった。
 不気味な沈黙が降りた。やがて、外から誰かが走る音が響いた。鈴音は待ってましたとばかりに薄ら笑いを浮かべた。
「まあそう慌てなさんな。ほら、お客さんがきなすった」
 店の扉を乱暴に開く音がした。カロスは何事かと振り返る。
 そこにはどす黒い血の色の衣をまとった青年が立っていた。額にいくつもの銃創があり、血液が川のようにしたたり落ちていた。しかし、やがて逆流するように傷跡はふさがった。
 カロスは目の前で起こった面妖な光景に、思わず息をのんだ。
「助けてくれ! なんなんだこれは? 傷は消えるのに、痛みは消えないんだ。うぁぁ!! 痛い。痛い。痛い!!!」
 青年はもがき苦しみうずくまった。
 鈴音は立ち上がって、ゴミでも見るような目つきで青年を見下ろした。
「やれやれ。あんたはろくに説明も聞かないで行っちまったからねぇ。そいつは確かに不死の薬だ。だけど、その副作用として受けた傷を溜め込む。といっても実際に体験したあんたにいまさら説明しても無駄か」
「う、く。この……!」
 青年は懐から拳銃を取り出す。震える手で銃口を鈴音に向けた。
「いいのかい? あんたを助けられるのはあたしだけなんだよ」
 鈴音が言うと、青年は銃を捨て、頭を地面につけた。
「お願いだ。助けてくれ」
「ああ、助けてやる。ちょっと待ってな」
 彼女は、不死の薬の置いてあった棚から、一つのビンを取り出した。ラベルは貼ってなく、白い液体が満たされている。彼のもとに戻ると、ビンのふたを開け、彼のあごをあげさせ、口の中に無理やり中身を流し込んだ。
「…………」
 液体が彼の中にすべて納まる。青年は落ちるように頭を下げた後、固まったように動かなくなった。
「何を飲ませたんだ」
「知らん。これをもらった魔女にでも訊いてくれ。それよりも、その気持ち悪いの、そこらへんに捨てておいてくれないか。そうだねぇ、裏のゴミ置き場にでも置いておけば、誰も気づかないし、カラスが食べてしまうだろうさ」
 カロスはやれやれと肩をすくめ、巨大な人形と化した青年をひきずって、店の外へと運
ぼうとした。しかし、すぐに足を止めた。
「おい、こいつやけに硬くないか?」
 試しに青年の腕や足を動かそうとするも、彫像のように微動だにしない。肌の温度も感じられない。まるで硬くなった空気に触れているようにカロスは感じた。
「ちょっと待ってな。たしかこの辺に」
 鈴音は物置と化している帳場の裏からなにかを探した。しばらくすると、彼女はそこから一枚の紙を持ち出してきた。
「あった」
「なんだそれは?」
 書きなぐったような筆跡で、文字が連ねられており、随分と日焼けしている。大きさは手の平くらいの小さな紙だった。
「説明書だ。もらってたのすっかり忘れてたよ」
「なんて書いてあるんだい?」
「時を止める薬だとさ」
「また奇怪な物を……。もし魔物にでもなっちまう薬だったらどうするつもりだったんだ」
 カロスは心底あきれ肩をすくめた。もう何回同じ動作をしたかわからないくらいだ。
「で、どうするんだい?」
「飾っちまうか」
「飾る!?」
「そう。だってそいつを見ても像にしか思えないだろう。名前はそうだねえ、『愚かな土下座像』なんてどうだい?」
「気持ち悪いだけだよ」
「いまさら気持ち悪いものが一つ増えたって、たいして気にならないだろう」
「違いねぇ」
 店内を見回して、カロスは溜息をついた。よく自分がこんな店の常連になったものだと、自分を褒め称えてやりたいものだ。
「売値は?」
「タダ」
 その日から『愚かな土下座像』となった青年は、今も苦しみから逃れられると信じ、恍惚(こうこつ)の表情を浮かべたまま、店内の隅を住みかとした。

     *

 数年後、雨宮骨董品店に青年の像は無かった。店主が捨てたのかもしれない。



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1 Comments
mizuiri
12 14, 2010
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こういう不思議なのは結構好きですね~。中身もショートショートのような作りでサクサク読めて、最後の『青年の像がない』という下りが皮肉さが出ててクスリとさせてくれました。おもしろかったです!

後、今更ながら土日使ってたまゆら見ました。
最近アニメはまったく見てなかったのですが、ほんわかしてて面白くて最後までついつい見てしまいました。
BD版は正直悩みモノですね・・・。買ってもいいぐらい良作だったので、これはお財布と相談です。では長文失礼しましたー。
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樹

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百合と眼鏡が好きな人です。
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