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旅のカケラ 千里

12 05, 2010 | Posted in 旅のカケラ | Thema 小説・文学 » オリジナル小説

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旅のカケラの五作目です。
2600字程度、できれば「鉄の馬」もご覧になってから見たほうが良いかと思います。

文体が今までとすこし異なっています。
豪雨の夜に、焼けた家の前で、一人の男が少女を見つけるお話です。
すこし時代小説風にしてみましたが、成功したかどうかは別の話。


旅のカケラ
~千里~


 雨が降っていました。季節は春になって間もなく、冷たい雨が町に降り注ぎます。昼間の晴天が嘘のように、どんよりと曇った空は、何かを憂えているよう。日が沈むにつれて、空は漆黒の闇の衣に身を包みます。それは町を一片残らず覆いつくしてしまうほどの闇でした。
 夜も更け、若い男が仕事終わりに町を駆け抜けていきます。今日は仕事が長引いてしまった。子どもたちはもう眠ってしまっただろう。男は早く早くと急いたために、濡れた土に足を滑らしてしまいました。盛大に腰を地面に打ち付けて、「あいたたた」とうめき立ち上がります。
 見上げると、そこには少女が一人立っていました。どうやらずっとそこにいた様子です。暗くて存在も分からずに、突然幽霊のような白い顔を見てしまったのですから、男は腰を抜かしてしまいました。
 少女の顔が確かめられたのは、彼女の目の前で家が燃えていたからです。真紅の火炎が、獲物を喰らうように踊り狂っていました。しかし雨にその力を抑えこめられたためか、火は次第に闇に負けてしまい小さくなっていきます。
 わびしい外灯の明かりだけが、二人を照らす光源となりました。男はようやく気を取り戻すと、人形のような小さな顔の少女に訊ねました。
「ここがおじょうちゃんの家なのかい」
 男は努めて優しい声音で言おうとしましたが、あまりもの恐ろしさに声が震えてしまいました。
「そう」
 少女は虚ろなまなざしで、焼け焦げた廃墟と化した屋敷を見つめながら答えました。まるで死者が口を開いているようでした。
「お父さん、お母さんは」
「……」
「こんなところに立ってちゃ、風邪ひいちゃうよ」
「……」
「とにかく私の家に来なさい。いいね」
「うん」
 男は少女の手を引きます。少女は、体重がなくなって浮いているかのように軽く、男は危うく力をこめすぎて、少女と言う人形を壊してしまうと案じてしまうほどでした。突然の雨に、傘を持ってこなかったことを男は悔やみました。少女の手は、氷のように冷たかったのです。
 夜遅く。通りには誰もいません。火の見櫓(やぐら)からの鐘の音もいっさいありませんでした。
 男は不思議に思います。火事があったのに、誰も気づいていない。そもそも転ぶまで、家が燃えているのに気づかないなどおかしいことです。男があの場にたどり着いた瞬間に、家に火がつき崩れ、一瞬にして燃えつきてしまった。そんな非現実的な話でしか説明ができないのです。
 男の家に着くと、男の妻でしょう、女が訝しげながらも並々ならぬ状況を察したのか、急いで少女を居間に連れて行きます。温かい衣に着替えさせ、しばらく使っていなかった囲炉裏に炭を並べ火をつけました。やわらかな橙の光が部屋を淡く灯しました。
「いったいどうしたんだい!?」
「わからない。どうやら火事があったらしいが」
「火事だって? そんな気配まったくなかったけど」
「それが、突然燃えた家が現れて、一瞬で火は消えちまって……そんで、その前でこの子がいて」
 男は悪い夢を見ているようでした。この少女は狐で、化かされているのかと疑いました。
「はは、どっか頭おかしくなっちゃったのかな?」
「ちゃんとおし! 今は何が起こったか、よりこの子のことを考えなきゃでしょ」
「ああ、そうだったな」
 男はうなずくと、蒼白な少女を見ました。相変わらず生気のこもってない双眸(そうぼう)でしたが、幾分顔色はよくなってきたようでした。
「あなたの名前を教えて?」
 女が尋ねましたが、少女は首をふるふると振りました。
「あなたの両親は……死んだのかい?」
「おい!」
 男がそんな酷なことを訊くんじゃないと、女をいさめました。
「そうだよ」
 しかし、少女はまるで気にするでもなく、淡々とした口調でつぶやきました。
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、もうすぐ産まれる弟か妹も、みんな死んじゃった」
 男と女は、少女を心からあわれに思いました。あまりもの衝撃的な出来事に、少女は心を失ってしまったのだ、と。
「住むところがないと困るだろう。私たちのもとで暮らすかい? ちょうど余裕もある。役所に養子を頼んでもいいが」
 男の提案に、少女は首を横に振りました。
「だめなの。旅をしないと」
「旅?」
 女が調子の外れた声で言いました。家族を、家を失い、悲しむでもなくいきなり旅をするというのだから、彼女がそう思うのも無理はありません。
「そうか。いいじゃないか。いずれ大きくなったら、私たちと一緒にいろいろなところをまわろうじゃないか」
「そうね、そういう意味なら、いいわね」
 女は、今度は手を組み微笑んで、男の提案に大きくうなずきました。少女は、それには何も答えませんでした。
 ほんのすこしだけ、少女はうつむきました。夫婦はそれを、同意と受け取りました。
「名前が分からないといったね。じゃあこういうのはどうだ。旅がしたいのだろう。長い道のり、千里というのは」
 男ははじめて子どもができたときのように、嬉々とした表情で言いました。
「センリ……」
 少女は、どこかこそばゆい面持ちで、その名を口ずさみました。今まで見たことのない、人間味のある表情に、夫婦は目を輝かせました。

     *

 日が暮れました。昨日までの大雨が嘘のように、空は抜けるような青空でした。鳥達が楽しそうに歌っています。
 センリとの新たな日々に、男は心躍らせながら目を覚ましました。しかし、隣に寝ていたはずの彼女の姿がありません。
 きっと早起きして、外にでもでているのだろう。男は顔を洗いがてらに井戸へおもむきます。しかし少女はいません。
 きっとかわやにでもいるのだろう。男は用を足しがてらに、かわやにおもむきます。しかし少女はいません。
「……そうさ、きっとあいつらと一緒に寝ているのだろう」
 男は、息子とその妹を起こしがてらに、二階の寝室におもむきます。
「おい、朝だぞ!」
 ふすまを開けますが、やはり少女はいませんでした。
 朝餉(あさげ)の支度をはじめた妻に訊ねますが、彼女も見ていないといいます。
 まさかと思い、二人は町中を探しまわりました。しかし、センリは見つかることはありませんでした。
 きっと夢だった。
 そう考えた二人は、いつしか自分が名づけた少女のことを忘れていきました。
 虚ろな少女を覚えている人はいませんでした。昨夜火事が起こったという事実もありませんでした。焼け焦げた屋敷の会った場所には、空虚な空き地があるだけでした。


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似非店員:樹
百合と眼鏡が好きな人です。
日本語、和風なものも大好物。
掲載しているものは、主に百合もの、ファンタジー小説となっております。
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