旅のカケラ 時計は止まる

11 21, 2010 | Posted in 旅のカケラ | Thema 小説・文学 » オリジナル小説

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複数話まとめると、あとでごちゃごちゃするので、一話ずつの公開にします。
700字程度なのでさくっと読めるかと思います。

とある時計をめぐるお話です。


旅のカケラ
~時計は止まる~


 カチコチ カチコチ
 時計の針が走る走る。
「おや、時間がずれておるな」
 振り子時計の持ち主のおじいさんは、少しあわてんぼうな時計の針を戻す。突如ギッという扉がきしむような音がした。しかし彼は気にしないで立ち去った。
 カチコチ カチ……コチ
「あらまあ。時間が遅れているわ」
 客人のおばさんは、親切心で時計の針を進めてやる。
「ほら、がんばって走りなさい」
 励まし声が聞こえたかは知らずも、時計は再び走り出す。もう狂ってないだろうと、おばさんはいなくなった。
 カチコチ カチ……コチカチ
 時計の針は走る走る。走っていた向きも忘れて逆回転。
「ねえ、この時計狂ってるよ」
「ほんとだ。逆向きに回ってる」
 少女の声に少年の声がこたえる。
「おもしろそうだから、このままにしよう」
「いいのかな」
 少年の提案に少女は少し罪悪感を感じながらも、走り出した少年の後を追いかける。
 カチ…… コチ………………
 時計の針はやがて止まる。前に後ろに走り疲れたのだろうか。わずかな気力を振り絞って、かすかに振れている。しかし、もうこの時計に、本来の役目を果たす力は残されていない。
「なるほど。この時計が原因か」
 旅人が、時計の前でつぶやいた。
 旅人が、時計のねじを回しても時計が生き返ることはなかった。もう死んでいるらしい。この時計も、この街も。
 外へ出れば、動いているのは一人だけ。時計が動かなくなった日から、街の民もその時を止めた。
 通りに、一匹の猫が躍り出た。旅人はすこし安堵し、その生き物に触れようとする。しかし、次の瞬間、猫は突然石像になったかのように動かなくなった。
 本屋にいっても本は開かない。食料を調達しようにも、手に持つことさえ叶わなかった。
 旅人は、逃げるように街を後にした。



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日本語、和風なものも大好物。
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