ひだまりスケッチSS 「ありがとう」

11 03, 2010 | Posted in ひだまりスケッチ | Thema 小説・文学 » 二次創作:小説

1 Comments
沙英さんお誕生日おめでとう。
いてもたってもいられずに書いてしまいました。
プロットなしで、妄想のみで書き上げました。

先日公開したものとは、まったくの別物です。
ですが、こちらの方が夏目が夏目っぽいような気がしてます。

できは期待しないでくださいね。
細かい描写への突っ込みは、ご容赦くださいませ。

続きからご覧ください。



~ありがとう~

 今日は文化の日。沙英の誕生日。
 毎年この日は、もどかしさに胸が苦しくなる。
 彼女に「お誕生日おめでとう」、と一言言えれば、と考えるだけで一日が終わってしまう。
 今日こそは絶対に、と思うのだけど、その思いに比例するかのように、恥ずかしいという気持ちは高まり、まるで檻に閉じ込めるように私を支配してはなさない。
 ならば、メールを、と携帯を取り出すのだけど、持つ手が震えて書き出しさえも打ち込めない。そもそも、メールで誕生日のお祝いなど、心がこもってないような……。
「はぁ……」
 まるで恒例行事のように、私は盛大な溜息をついた。
 たった一言。この口元から、勇気をだしてしぼりだす。それだけのことなのに。
 気晴らしに外にでる。もしかしたら、沙英に会えるかも。そうすれば、勢いで言えるかも、と微かな希望を持って、祝日の町を歩く。
 本能に従うかのように、私がたどり着いたのは、ひだまり荘の目の前。
 何度も何度もひだまり荘を行ってはきたりを繰り返す。沙英がでてこないかな、と期待をこめて。と、同時に出てきたらどうしようという不安も、胸の内を渦巻いていた。
 傍から見れば不審者そのものだろう。
 結局、ひだまり荘からは誰も現れなかった。軽い溜息をつく。安堵と、落胆の溜息を。
 また、今年も……。
 日は既に傾いている。意味もなく町を徘徊する。
「あれ? 夏目先輩?」
 気がつけば、ケーキ屋さんの前。
「おーい、夏目さーん」
 どこかで聞いたような二人の声が、私を呼んでいたような気がしたが、気のせいだろう。私は吸い込まれるように、店内に入った。
 誕生日といえばケーキ。あまりにも安直。そう考えながらも、財布の紐は緩む。そして、買ってしまった。モンブランを7個。山のように盛られた栗のピューレは、見ただけでも、おいしそう。この店のおすすめ商品だ。
 私とひだまり荘の面々を入れれば、ちょうど。
 プレゼントがあれば、いけるはず。
 だって、こんなの一人で全部食べきれないもの。
 手にはモンブランをつめた箱、足はひだまり荘に向けて……歩くのだが、次第に歩幅は小さくなっていく。
 もし、もう既に、誕生日会のケーキを用意していたら。
「あっ!」
 そういえば、さっき私を呼んでいた声。よく考えてみると、ゆのさんと宮子さんだった気が……。
 山並みから微かにのぞく、残り火ような夕焼けは、深い群青の空に飲み込まれつつある。
 私は、ひだまり荘を目の前にして立ち尽くしていた。
 にぎやかな声が、ひだまり荘の一階からもれている。沙英の誕生日会をやっているのだろう。
 数十歩歩いて、インターホンをを鳴らせば、それだけでいいはずなのに、その距離は永遠のようにさえ思えた。
 手に持ったケーキの箱が、重石のように思えた。何か別のもの、例えばこれから寒くなるから、編み物とか……ああ、でもヒロさんとかからいくつももらってそうだし……いまさらよね……。
 うつむきながらもんもんとする。
「あれ、夏目?」
 突然の呼びかけに、危うく手に持ったものを落としそうになる。
「さ、沙英。どどど、どうしたの」
「どうしたのって、ちょっと気分転換に外に出ただけだよ。それに、もしかしたら夏目がいるかもってヒロが」
「な、なんで?」
「ゆのと宮子がケーキ買いに行ってるときに、見かけたって。そしたら、外に出てきたら? ってさ。で、どうしたの? あ……それ、もしかしたら」
「べ、別に沙英のために用意したんじゃないんだから」
「そんなにいっぱい一人で食べる気?」
「…………」
 私は何も言い返せずに、地面を見つめてしまう。
「入れば? 寒いでしょ」
 秋の宵。肌をなでる風は冷たくて、彼女の言うように、ずっとここにいては風邪を引いてしまうかもしれないほどだった。
 沙英の優しい一言に、また、いつもの癖がでてしまう。
「さ、沙英はみんなに祝ってもらって幸せね。随分と浮かれてることでしょうね」
 そんなこと、全然思ってないに、まるで発作のように口から飛び出す言葉。浮かれてるなんて、そんな様子、欠片もないのに。
「べ、別に浮かれてなんて……。え、あ! もしかして私の誕生日知ってた?」
「へ!? そ、そんなことないわよ! 別にお誕生日おめでとうなんて言いに来たわけじゃ、沙英のためにケーキ買ってきたわけじゃ……ないん、だから……」
 心の中で思ってたことが、そのまま口から出てしまった。
 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!
 沙英の前にいることが耐えられない。
 私は彼女の手に、無理やりケーキの箱を持たせると、逡巡した後、きびすを返し駆け出そうとする。
「待って!」
 しかし、彼女は私の腕をつかみ、それを許さない。
 はじめて触れ合った。その衝撃によって、私は凍ったように動けなくなる。
「これ、七個入りだよね。夏目も、一緒に食べたかったんじゃない?」
「…………うん」
 できることなら今すぐにでも、ちりとなって消え果てしまいたい。でも、これ以上ないほどにうれしった。胸にあふれた思いが爆発して、昏倒しそうになったのをこらえ、私はコクンと頷いた。
 これで満足?
 心の中で誰かが囁く。
 まだ、満足に思いを伝え切れてない。
 このまま、沙英の好意に甘えては、絶対に悔いが残ってしまう。 
 ひだまり荘102号室。沙英の部屋の前で、彼女がノブに手をかけるとき、私は粉粒ほどの勇気をかき集めて、そして……。
「沙英」
「なに? 夏目」
「おめ……でと。…………誕生日おめでとう!」
「うん。……ありがと」
 照れるように頬をかきながら沙英は言った。
 私の、一番聞きたかった言葉を。




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1 Comments
mizuiri
11 05, 2010
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めちゃくちゃ遅くなりましたが、沙英さんお誕生日おめでとうございますヽ(´ー`)ノ
そして小説のほうグッジョブでした!夏目さんのツンとデレの具合がいつもながら非常にいいですね~。ストーカーっぽいですが、夏目さんと沙英さんの光景を電柱の影から微笑ましく見たくなります。

しかし樹さんには謝らねば。コメントしようとして何回も訪問して見ていたのに、別作業しているうちに寝落ちしてしまっていたことを・・・。
ホント申し訳ないです。でも小説は楽しく読めてますのでがんばってくださいませっ!
長文失礼しました~。
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樹

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百合と眼鏡が好きな人です。
日本語、和風なものも大好物。
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