マナりつ小説 雪の花(前編)

05 05, 2013 | Posted in その他二次創作 | Thema 小説・文学 » 二次創作

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 いろいろと同時進行で創作していたため、更新が遅くなりました。
 今回は初めてのプリキュアものとなります。最新作の『ドキドキ!プリキュア』のマナりつにすっかり入れ込んでしまい、そのため、今作はマナりつとなります。もちろん大きなお友だち向けなので、子どもは読んじゃダメだぞっ!
 内容としては、一言で言えば鬱百合です。最近、こればっかりですね。なので、暗い話が苦手な方はお引き取りくださいませ。
 興味があれば以下より御覧ください。ちなみに文量は6000字ほどとなっております。後編も、大体同じくらいの文量になるかと思います。

2013/05/20
 後編公開しました。文量は1万字程度の加筆となります。


【あらすじ】
 剣崎真琴が学校に大貝第一中学校に転校してきてから芽生えた感情。それは、マナへの想いが友情以上のものであることの証明。マナとの関係を壊したくない六花は、自分の想いを秘める。しかし、夢の中のマーモの囁きに、次第に心は揺れ動き……


~雪の花~

  愛している《アイ・ラブ・ユー》。
  この世でもっとも難しい、三つの単語。
  でも、他に何が言えるだろう。
             ――ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』


   一・望まぬ縁

 空はどうして曇るのだろう。
 梅雨入り前の空を見上げて、ふとそんなことを考えた。
 青く澄み渡った空も、次の日にはどんよりとした雲に覆われてしまう。人の心も同じだ。楽しくて愛おしい時間も、過ぎ去ってしまえば、いつ苦しい時間に変わるか分からない。空と違うのは、一度心が曇ってしまうと、晴れるのに時間がかかるということ。
 私は生徒会室で一人、書類の整理をしながら、校庭を見下ろす。そこには、荷物を抱えながら奔走する人の姿があった。
 相田マナ。生徒会長として、生徒の悩み、依頼を積極的に引き受ける、重度のおせっかい症を患っている。今日も、生徒会室に入る直前で仕事を依頼され、そのまま芋づる式に仕事が重なって、一向に戻る気配がなかった。
 それだけだったらいつものこと。仕事の山が増えたって、苦に思うことはない。
 私は頬杖をつき、マナを見やった。彼女の横には剣崎真琴がいた。ボーイッシュな短い髪に、一見クールに装いながら時折見せる笑顔は、誰をも魅了する。彼女はアイドルだった。つい先日まで、せいぜい握手会で触れ合うことが関の山の彼女がここにいる理由は……
「六花、どうしたケル? 浮かない顔して」
 カバンの中から、妖精のラケルが顔を出す。一見すると、子犬のぬいぐるみみたいな様相だけれど、れっきとした生き物だ。どういう理屈かはわからないが、彼らはラブリーコミューンというスマートフォンのような姿に形を変え、それによって私たちはプリキュアに変身することができる。
 それは、幼い頃に見た、テレビの向こうのヒロインの姿であった。その頃は、可愛い衣装を身にまとい、悪と戦う姿に憧れも覚えたものだった。しかし、プリキュアであることが繋いだ絆の糸が、私を苦しめている。
「なんでもないわよ」
 答え、また糸に引かれるようにマナを見る。彼女は私に気づいて手を振った。私も手を上げて返事をする。
「顔、ひきつってないかな」
 ボソリと呟く声に、ラケルは何を言ったのかと首をかしげた。
 胸の奥底に根を下ろすその感情は、たった二文字で的確に言い表すことができる。だけど、認めたくなかった。認めてしまえば、胸に隠していた想いが暴かれ、すべてが崩れてしまう気がした。
 百の人に尋ねれば、皆が答えるだろう。
「お前は嫉妬している」と。
 マナの一番であることを信じて疑わなかった。もう一人の親友のアリスは、その立場ゆえに、通う学校も違い、いつもマナのすぐ傍にいるのは私だった。
「諸行無常……か」
 いつまでも、変わらぬ関係でいられるなどありえない。卒業して、職を得て……。それでも親友でいられるのだろうか。保証はどこにもない。構わない。終わりが少し早くなっただけ。マナが幸せであれば、私も幸せ。そう思うことでしか、この感情のはけ口を見つけることができなかった。
「六花は難しい言葉を知ってるケルね」
「知らないことの方が多いわよ。だから、勉強するの」
 そう……、私は何も知らない。抱く気持ちが嫉妬だとして、それがマナに親友以上の上を抱いている証であると仮定することはできる。しかし、その先の解は、深海の底のように闇に覆われている。
 考えれば考える程に、感情を抑える麻は悲鳴を上げ、キリキリと、胸が締め付けられるように痛んだ。


   二・黒油のように侵食する

 水滴石を穿つという言葉がある。僅かな水滴でも、長い時間を経て落ち続ければ、いつか固い石にも穴を開ける。転じて、小さな努力も積み上げれば大きな結果になるという意味を持つ。
 同じように、積み重なった辛みは心に穴を開ける。ポツリポツリと、まぶたから逃げることのできなかった涙が、水滴となって落ちる。石より脆い心は、いとも簡単に傷ついてしまうのだ。
 その日の夜は、なかなか寝付くことができなかった。そのせいか、夢の中なのに、意識は鮮明だった。
 そこは出口の見えない闇の檻。心の中を写したような常夜の底で、私は一人泣いていた。
「こんなところで泣いて、どうしたの」
 静かな闇の中に、若い女の人の声がこだまのように聞こえた。優しくて、それでいて妖艶な声だった。
「分からない……」
 どこに返事を返せばいいか戸惑いながらも、それだけ呟いた。
 姿は見えない。像を写すための光子ひとつないのだから当然か。
「あら……、そんなはずはないわ。あなたは気づいているはずよ。己の中に咲く感情の名前を」
 ポツリと頬を伝った水滴が、地面を叩き、波紋となって広がる。
「認めてしまいなさい。そうすれば楽になるわよ」

 短い夢は、目覚めを最悪のものにするには十分な仕事をなした。
 心の色を反映するように、朝のニュースは気持ちの良いものではなかった。
 テレビの画面には、大型のタンカーが、海に寝転ぶように傾いている様子が映し出されていた。その周囲では、明らかに海の色ではない黒い油が、波に揺れている。
 場面は変わり、油にまみれて衰弱する海鳥の姿が映しだされた。
 あぁ、これは私だ。マナを助けるツバメになると言っておきながら、羽を痛め、二度と飛べずに弱っていくだけの存在。
 窓の向こうを見ると、今にも雨を招かんとする暗雲が空を埋めていた。テレビから聞こえるニュースキャスターの声が、この地域の梅雨入りを淡々と告げた。

 その日は、頭の中が錨を下ろしたように重かった。そのせいか、授業で当てられて答えられないという失態を犯したことを始め、書記の仕事にも見落としがあったりと散々であった。
「最近の六花、少し変だよ」
 当然、そんな調子の私をマナは心配してくれる。心配を得るために演技していたように思え、自分が嫌になる。
 帰り道はいつもマナと一緒だった。真琴は、たまに仕事が休みの時以外は、授業が終わってすぐに下校する。登校と下校時だけが、彼女と二人になれる唯一の時間となった。そういえば、最近は家にも訪れてない。
「大丈夫よ。人間、三百六十五日絶好調なわけではないのだから。たまにはこういうこともあるわ」
 マナは納得していない様子。
「嘘だよ。どれだけ、親友やってると思ってるの」
 穿つような目が私を見つめていた。綺麗で真っ直ぐな目だった。思わず私は顔をそむける。
「このごろ、仕事任せっきりで疲れたりしてない? それとも、家で何かあったとか」
 違うよ。ぜんぜん違う。見当外れよ、マナ。
 私は薄く笑う。結局人の心など見ることはできないのだ。
「ねえ、マナ」
「なあに? 六花」
 マナが尋ねたその時、雨粒が一粒落ちた。コンクリートに小さな染みが、ポツリポツリと生まれていく。
「マナは、人を好きになったことがある?」と私は言った。
「そりゃあ、あるよ。ありすにまこぴー。一番好きなのは、もちろん六花だよ」
 ポツリポツリから、ポツポツへと、地面を叩く雨のリズムが速くなる。マナが、手元の傘を差し、その中に私を入れた。
「濡れちゃうよ」
「うん……」
「突然どうしたの? そんなこと聞いて」
「いいえ……。何でもないの」
 私は、マナの傘から抜けだして、自分の傘を開いた。家は、既に見える距離にあった。
 振り向いて、マナを見つめる。
 ただ一言、
「私もマナのこと、好きよ」
 と呟いた。マナは微笑みを浮かべて、
「うん、知ってる」
 と満面の笑みを咲かせた。
 同じ言葉だけど、意味は鏡を映すように対称ではなかった。
 私は逃げるようにその場を立ち去った。傘を振り回すように走ったせいで、顔には幾滴もの雨粒があたった。一粒一粒が、氷のように冷たかった。
 無邪気な笑顔がどれだけ私を傷つけるのかを、彼女は知らない。

 その日も夢を見た。囁く声は、前にもまして鮮明なものだった。
「マナとあなたの好きは違うのね。その意味も、大きさも」
 溶けてしまいそうなほど甘く優しい声音。そのたった一人の聴衆は、今回も泣いていた。子どものように、うずくまって、顔を隠して……。救いを求めて、耳を澄ましていた。
「数に実数と虚数があるように、言葉の意味にも表と裏がある」
「そう。私はマナのことが好き」
「それは友達としての好き?」
 私はフルフルと、首を振った。
「では、好きな人とはどうしたい?」
 マナの優しい顔が、銀幕に像を結ぶように浮かんだ。
「キスをしたい。肌に触れたい。片時も離れず、一緒にいたい」
「だけど、あなたはその想いを隠しているのね」
「隠さないと壊れてしまうから」
「それでは、あなたの望みは一生かなわないままよ。それでもあなたは構わないというの?」
「マナが幸せなら、私は……」
「あぁ、なんてかわいそうな子……」
 柔らかな衣に包まれる感覚がした。姿のない、優しいアルトの彼女が抱きしめてくれているのだと、わかった。
 甘い声音は、なおも旋律を奏でるように、言葉を紡いでいく。
「マナが欲しているのはあなたよ。あなたが守らなくて、誰がマナを支えるの?」
「私が、……マナを」
「そうよ。そのためには……」
「そのためには――――」
 声は途切れることなくささやき続けた。
「iは二つあっても、マイナスにしかならない。だからもっとたくさんの愛が必要なのよ」
 また会いましょうという言葉を最後に、夢は終わりを告げた。


   三・決壊

 その日は雨が降っていた。チャンネルを見失った昔のテレビ画面みたいに、ザーというノイズが、生徒会室の窓の向こうから聞こえる。あの向こうに太陽があると信じられないほどに暗い空だった。
 会議が終わり、仕事が片付いた頃、外は夜のように真っ暗だった。
「今日は早めに帰ろうか」
 返事も聞かずに、マナは私の手を引いていった。今日は面倒事に絡まれることなく、またマナ自ら悩める生徒を探しに行くこともなかった。
 どういう風の吹きまわし、と問う間もなく、玄関へと導かれていく。
「すんごい雨だね。……って、たはー!」
 靴を取り出すとき、マナはふと気づいたように私を見る。
「そういえば、傘持ってくるの、忘れてたんだった。六花様、お願い!」
「こんな降水確率百%の日に忘れてくる人がいるの? あれ、マナのでしょう」
 生徒の殆どが帰り、既に過疎化状態の傘立てを指差す。たとえ一年の傘立てに忍ばせたって、すぐにわかる。
「ち、違うよ! 最近新しいの、買ってさ」
「はいはい、わかりましたよ。甘えんぼさん」
「えへへ、ありがとー」
 見え透いた嘘をついてまで、相合傘をねだる彼女を、私は訝る。たまに、片方が傘を忘れた時、入れてもらうことはあったけど、今回のはあからさますぎる。
「雨、止まないね」
「ええ」
 傘をマナの方に寄せ、遠慮がちに距離を置く。制服の肩口が濡れて冷たかった。
 その様子に気づいたマナが、肩を寄せる。逃さないとでも言うように腕を組み、手を握る。
「恥ずかしいわよ」
 それには答えず、マナは何かを憂うような表情で私を見る。
 顔が近い。マナの指先は温かかった。心臓が鼓動のテンポを上げる。
「六花。何か隠してること、あるでしょう」
 ズキリと胸の底が痛みを訴える。
「何のこと?」
「ごまかさないでよ。今日はもう逃さないからね。……ねえ。あたし、六花の力になりたいの。困ってることがあったら、言って」
 結んだ手は固い。
 逃げた所で、マナだけを濡らすことになる。そんなこと、できるはずがないという確信を彼女は持っているのだろう。そして、それは正しい。
 マナの家についても、彼女は手を離すことはなかった。
「今日、パパもママもいないの」
 マナの家へと、部屋へと、導かれるように引かれて行く。
「臨時休業で、イタリアまで旅行だってさ。可愛い娘を置いて、嫌になっちゃうよね」
 静かな空間。私とマナだけの部屋に、雨の音が優しいノイズとなって聞こえる。
 マナは私にタオルを渡す。
「少し濡れちゃったね。お風呂温めよっか。あっ、そうだ! 今日泊まっていきなよ。パパとママ帰ってくるの、明日だから」
 マナの優しい言葉。だけど、今はその一つ一つが、トゲのようで痛みを伴って感じられた。
 こんなに近くにいるのに、だけど心の距離は果てしなく遠い。
 ――ならば……
 ならば、どうする?
 ――奪ってしまえばいい。
 脳内に声が響く。夢のなかの甘いささやきが、鈍い頭痛を伴って流れてくる。
 夢に入る前、子どもに読み聞かせるように。
 ――心も、身体も、あなたのものにしてしまえばいいのよ。
 そうすれば、マナは私のものになるの? でも……。
 ――恐れなくていいわ。あなたの願い、叶えてあげる。
 白昼夢は、閃光のようにはじけて消えた
 同時に、私の中の何かが、プツリと切れた。

 目の前にはマナがいた。親友でいたいがゆえに、気持ちを伝えられなかった相手が。
「ほら六花、着替えて。風邪引いちゃうよ」
「ええ、ありがとう……」
 身体を拭き、着替えている間、マナは紅茶を用意してくれた。お菓子は桃まんという、なんともアンバランスなチョイスだった。
「ごめんね。これしか、お菓子なくて。それとも、今から作ろうか」
「構わないわ」
 私は紅茶を一口いただくことにする。マナもそれに習った。
 小さな部屋に、アールグレイの甘い香りが、ほのかに漂う。
 部屋の外からは、紅茶を飲むにはそぐわない、激しい雨音が聞こえる。それに混じって、時折遠くからの雷の音が轟く。
 口を開いたのは、マナだった。
「六花……」
「なあに、マナ」
 まじないのように、互いの名前を呼ぶ。
「あたしたち、親友よね」
「何を言っているの、いまさら」
「だったら、隠し事しないで。六花、最近、いつも暗い顔してたよね。あたし、六花のそんな顔見たくないの。だから……」
「だったら、マナは何をしてくれるの?」
「えっ……?」
 私は薄い笑みを浮かべ、マナの近くへとにじり寄る。
 紅茶を入れたカップが倒れ、カーペットに染みを作った。
「マナは、私が隠していたことを知りたいのね」
「六花……」
 何が起こったのかわからない。そんな顔をしていた。
 すぐ近くに、愛しい顔がある。
 だけど、吐息は感じられない。私が塞いでしまっているから。
 キョトンとした表情は、驚きに変わる。
 唇を離すと、マナは苦しそうに「どうして……」と訊く。
 喋ろうと口が開くのを許さず、私は唇を重ねる。
 柔らかい感触。私という存在すべてが溶けてしまいそうなほどに、温かった。
 床に倒れたマナに覆いかぶさる。
 そして、制服を脱がそうと手をかけようとしたとき、
「やめて!!」
 腹に鈍い衝撃が走った。
 ひるむ私から、彼女は逃げ出した。
 向こうの部屋から、扉の閉まる音と、鍵がかけられる音がした。
 一人残された部屋に、白い光が一瞬点った。
 空が悲鳴をあげている。
 黒く淀んだ雲を、ビリビリと裂くように、いくつもの稲光が走った。

 はじめてのキスは、苦い紅茶の味。それだけが、鮮明な感触として口元に残っていた。
 涙の粒が落ちていることに、しばらく気づくことができなかった……。

 そしてまた、
 優しい眠りに誘うように、
 黒い夢が、意識を奪っていく。


 ――後編に続く

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