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占い絵師 -片翅-

03 14, 2013 | Posted in 短編 | Thema 小説・文学 » オリジナル小説

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 タイトルはかたはねと読みます。某PCゲームと、某サーカスアニメに大いに影響を受けています。pixivの『創作SSライトノベル杯』という企画用の作品となります。pixivでの後悔ページはこちら。5000字という縛りに苦しめられた末、無理やりまとめました。
 

【あらすじ】
 ストリートサーカス『天翅の竪琴』のリーダーアリスは、不調に悩む中、占い師である絵師を紹介される。天使と悪魔の絵を自らの公演に反映させ、パートナーのカティアとともに、最後のチャンスである舞台へと臨む。


~占い絵師 -片翅- ~

 どこから道を踏み外してしまったのだろう。アリスは街頭を埋める「ふざけるな!」「金返せ!」「引っ込め!」という不満、非難の嵐の中で考えを巡らせた。
 彼女は街の路上を貸しきって行うストリートサーカス、『天翅の竪琴』というサーカス団の一員であり、リーダーであった。かつては親元を離れ、一心に練習に励み、一度は頂点まで上りつめた。しかし今の彼女に、かつての栄光の影は見られない。
「僕は君の翼にはなれなかったみたいだ」
 パートナーであったアベルは、そう言い残して去っていった。
 天翅の竪琴に合わせて演じれば、そこはたちまち楽園になる。車が平然と走る路上でのサーカスにおいて、事故死は当たり前。そんなストリートサーカスでただ一人の死者を出さないという誉れも、先日の公演で断ち切られてしまった。
「ついていけねぇ」「天使なんかじゃないわ。悪魔の竪琴よ」
 団員は口々に呪いの言葉を吐き、去っていった。残ったのは、今のパートナーであるカティアだけ。二人は、もう何度目かもわからない大ブーイングを耳に受けていた。
「アリス。あなた、少し休んだほうがいいわ」
 カティアは心からアリスを慕っている。アリスより一回り低い身長でありながら、演技はダイナミックで、いつかはアリスを超えるだろうともてはやされていた。だが、彼女が入ってから、むしろサーカス内の雰囲気は悪化した。そして、その矛先はなぜかアリスに向いたのだ。
「休む訳にはいかないわ。サーカスを止めたら、あたしの存在意義が無くなってしまう」
 次の公演は来週。街一つ貸しきる予定を覆すわけにもいかないため、練習を休むことはできなかった。
「そう……」
 天使のように綺麗な顔が、影に沈む。何度見たかわからない思いつめた顔だった。しかしアリスの心は変わらなかった。

 ある日、脚本家のヴァレリーに、今後を相談したところ、彼はため息混じりに語った。
「あんたの技術は完璧だ。ミスはないし、美しい。だけど、心に響いてこないんだよ。アリス。あんた、演技のとき、どこを見てる」
「もちろんパートナーよ。最高の演技のために、段取りを間違えないように」
「あんたらしいが、今はそれじゃいかんのさ。もしあんたが、このままでいいってんのなら、俺はこの仕事を降りさせていただくよ」
「そんなっ!」
 脚本家なくして、良い舞台など作れない。それではただの曲芸だ。
「あなたがいなくなったら、もうこのサーカスは」
 彼は、返事の代わりに一枚の名刺を差し出した。
「変えようって気があるのなら、そこに行ってみな。俺だってあんたのファンなんだ。あの頃のように、俺の心を震わせてくれ」
 ぎこちなく彼は笑った。

 名刺に書かれていた住所には、いかにも怪しい雰囲気のテントが張ってあった。占い絵師ラファエルと、かの天使の名を冠していることからも胡散臭さ満天である。
 中は意外とすっきりとしていた。照明は暗いが想像していた禍々しさは感じられなかった。骸骨の置物もなく、簡素な木製の丸テーブルがポツリと真ん中に置いてある。その向こうには、水晶の代わりに大きなイーゼル。そのせいで、向こうにいる人の顔は見えなかった。
「こんにちは」
 よく通るボーイソフプラノの声が聞こえた。一瞬、この世ならざる声に思えて、身の毛がよだつ。
「さあさ、悩みを打ち明けてごらん。極上の絵を仕上げて見せよう」
 帰りたいという欲求がアリスの中で渦巻いたが、解決したい思いのほうが勝り、彼女は一息に天使のサーカス団の零落を語っていった。
「それはそれは興味深い。久しぶりに良い閃きが降りてきそうだよ。さあさ、描いてみせよう。時間は少々取らせるが、きっと満足させましょう。当たるも八卦、当たらぬも八卦。答えはあなたの中に」
 占いとは百発百中の未来予知ではない。そのことをわきまえていることに、一欠片の信頼がアリスの中に芽生えた。
 絵は数十分程で完成した。しかし、そんな短時間で描いたとは思えないほどに、その絵はよく描き込まれていた。
 それは天使と悪魔の絵だった。彼らの背には大きな翼がある。ただ、どちらも片方の翼しか持っていなかった。これでは天を舞うことはできまい。悪魔は天使を貶めようと、悪意に満ちた目で天使の背を押している。涙をたたえた天使の隣には死神がいた。今にも白く輝く天使の首に、銀色に光る鎌が迫ろうとしている。
 色彩は黒い靄がかかったように暗かった。よく目を凝らさないと、それを見つけることはできない。右下の隅に、白く枠取られた空間が存在していたのだ。
「おや、それが気になりますか。そこにいるのはキューピッドさ」
 嘲るような彼の声は、最後まで心地良いものとは感じられなかった。

 ストリートサーカスは、明朝、日の昇る前に行われ、車のヘッドライトと、建物の電灯と、その壁を這う電飾が舞台照明の役割を果たす。一連の演技が終わったら、日の出とともに飛び入りは自由となる。祭りのように華やかな、それはストリートサーカスの醍醐味だったが、久しく見ることは叶わなかった。
 今回の公演が最後のチャンスだと、ヴァレリーは重々しく言った。
 照明が一斉に点灯する。窓から見下ろす観客の姿はまばらだった。
 無数のロープが、レンガ造りの建物の間に張り巡らされている。可動式の空中ブランコが、手招きするように揺れていた。
「行きましょう」
 天使を模した白の衣に身を包むカティアに声をかける。対するアリスは、黒尽くめの悪魔の衣装。白い羽と黒い羽の少女は、光の海の中へと躍り出る。
 はじまりは、天使と悪魔のダンスだ。鉄の死神の間を縫うように、二人は飛び、回り、白と黒のシンクロを作り出す。
 少しずつ舞台は上へと登っていく。
 車のバンパーを踏み台にして、ブランコからブランコへと飛び移り、ロープの上を戯れるように飛び回る。
 天使と悪魔は双子だった。違うのは羽の色だけ。天使は別れろとの声も聞かず悪魔と仲良くする。しかしある時、悪魔は天使を落としてしまう。空中ブランコから飛び立つカティアの手を、アリスは掴むことができない。ここで舞台は暗転する。
 再び照明が灯ったとき、天使の羽は欠けていた。顔を覆い悲しそうに地上で踊り続けるカティア。後悔に沈んだ悪魔は嘆く。荒れ狂うように、空を舞い技を披露する。
 彼女らの演技に、徐々に観客は増えていった。窓を開き、皆が見とれた表情で二人の舞を見、感慨に浸っていた。ヴァレリーも照明を操りながら、ほぉと感嘆の溜息をつく。
 鴉のように荒々しく、白鳥のようにきらびやかに。
 しかし、見せ所はここからだ。
 時を経て、悪魔は地上へ降りる決心をする。
「天にいるべきは私ではない。君だ。さあ私の羽を受け取って」
「でも、それではあなたが」
「君の舞う姿が見たいんだ。白い衣は、闇の空にはよく映える」
 二人はあの時のように、くるくるとワルツを踊る。電灯がチカチカと点滅し、次の瞬間には悪魔の羽は天使の元へと渡っていた。天使の背に白と黒の羽が広がる。
 二人は、家々の壁に斜めに固定されたトランポリンで、上へ上へと交差を繰り返しながら上昇していく。
 最も上にあるトランポリンからアリスは飛び立つ。
「私はここまでだ。君の故郷まで連れて行こう」
 交差のタイミングで、カティアの手を取り、空高くへと打ち上げる段取りだった。しかし、カティアの手はアリスの腹を押すべく構えられていた。
 彼女は悪魔の微笑みを湛えていた。
 アリスは悟る。あの占い絵師の絵の意味を。
 ――そう、あなたが悪魔だったのね。
 何かを企むような顔で笑むアリス。訝るカティアの前から彼女が消える。すんでのところで身体をずらし、カティアを抱かんと手を回す。バランスを失った二人は、錐揉しながら落ちていく。
 地上の流れ星が迫り来る。アリスは空いていた手で下層のブランコを掴もうとするが、手を焼くような摩擦に耐え切れず、すぐに離してしまう。
 巨大な鉄の塊が迫り来る。
 ――カティア……あなただけは……。
 アリスは、自らを背にする。二人は車体の下に潜り込むように転がった。
 すぐにカティアが、矢のように迫る光の間へとアリスを導く。アリスを抱き、迫り来る死神を避ける様を、町の人々は演技と受け取ったのか、歓声が沸いた。
「アリス……どうして」
 緩衝材で覆われた地面とはいえ、その衝撃はアリスの身体を間違いなく傷つけた。
 カティアの涙が、白い頬を打った。
「ふふ、可愛い顔が台なしね」
 こんな時でさえ彼女は微笑む。
「あなたのそういうところがずるいのよ」
 昔からそうだった。アリスは誰にだって幸福を振りまこうとする。その笑みと優しい微笑みは、決してカティアだけのものにはならなかった。
「私、あなたを独り占めにしたかった。でも、それが叶わないと知って……」
「それは、あなたが本当に叶えようとしなかったからよ」
 アリスは、カティアの手を解き自らの足で立つ。
「え……」
 カティアの唇にやさしい感触があった。アリスの顔がすぐそこにある。くちづけを交わしていると知り、小さな天使の頬が朱に染まった。
「愛してるわ」
と、カティアにしか聞こえないように囁いた。
「あたしは、あなたの演技に嫉妬していたの。嫉妬するほどに愛していた。あなたに魅入られていたの。それを認めるのが、怖かった。でも今は違うわ。あなたの演技が見たいの。あなたの輝く姿をあたしに見させて頂戴」
 心に迷いを抱きながら、良い演技などできるはずがなかったのだ。
「さあ、行きましょう。あたしたちの舞台はまだ終わってないわ」
「そんな……。あなた、ボロボロじゃない」
 自分の足で踊りながらも、カティアの手を借りて精一杯という状態。
「あら、そうねぇ。
 あぁ、これは困った!! 私には羽が一つしかない。これでは空を飛ぶことができないではないか!!」
 いきなり大げさな台詞を叫ぶものだから、カティアは何事かと呆けた顔になる。
「隠れてないで出て来なさいな!」
 アリスが空に向けて叫ぶと同時に、大きな白い鳥が空を横切った。いや、あれは人。
「ようやく答えを見つけたようだね」
「あなたに天使の姿は似合わないわね」
 空中ブランコを操るのは、かつてのアリスのパートナー、アベルだった。彼は苦笑いを浮かべて言う。
「さあ、君に翼をあげようじゃないか」
 空には幾つもの気配。二人の顔には、自然と笑みが溢れてくる。そこには、ステージを舞う何人もの天使の姿があった。かつての天翅の竪琴のメンバーだ。
「相変わらず臭い芝居をするのね」
 アリスは、カティアに微笑んで言った。
「先に行きなさい!」
 彼女の目から涙は消えていた。力強く頷き、空へと続く階段へと再び跳ね昇っていく。
 アベルはアリスの手を掴み、中央を揺れる大回転用のブランコにその足を移す。徐々に勢いをつけ、
「行くよ!!」
 極限まで回った所で、アリスを天へと放り投げる。
 天使たちと戯れるように、舞いながら、止まり木から止まり木へと、彼らの手を借りて登っていく。
「お帰り、アリス!」「やっぱり俺達にはここが似合ってるらしい」「あなたのお姫様は、空でお待ちかねよ」
 そして、カティアの元へと、舞い戻る。
 天上の止まり木で、二人は強く抱きしめあった。二度と離さないように、強く強く。
「ねえ、あたし、翼を失ってしまったの。だから……、もう落ちてしまわないように、ずっと一緒にいてくれる?」
 カティアは、アリスの腕の中で何度も頷いた。

 日は昇る。街は赤く染まり、天使たちの羽はキラキラと陽光を反射し光り輝いていた。
 ステージの上ではたくさんの人が踊っていた。サーカスの団員だけではない。窓から観覧していた人たちも、いつの間にか参加していたのだ。
 車中の人は、窓から顔を出し、ヒューヒューと口笛の協奏を奏でていた。
 楽しそうな笑い声が、辺り一面に咲いていた。
「おい、どうした。お前も来いよ! ここは楽しいぞ」「さあ、一緒に踊ろう!」「こんな楽しい祭り、見たことないわ」
 天翅の竪琴は鳴り響く。その音につられて、人々は楽しく舞い続ける。きっと、これからも。


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