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旅のカケラ 摩天楼忌劇

05 27, 2011 | Posted in 旅のカケラ | Thema 小説・文学 » 自作小説

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 前作で、いくつかあらすじを書いていた作品がありましたが、時系列バラバラなので、書く意味ないか、と考え、これからは省略させていただきます。前作の分も修正しておきます。
 今回はすこし時系列をさかのぼったお話です。ダークファンタジー……というより単にダークな内容になっているだけかもしれません。そして、大いなる後付が。
 ちなみに、字数は5500字ほどとなります。



旅のカケラ
~摩天楼忌劇~


 太陽がかくれんぼしてるかのような、暗い空の下、舗装された道を一台の二輪車が、背に二人の人間を乗せて走っていた。
 雨の気をはらんだ空気に、濡れては困ると、運転手は機体を加速させる。
 真っ直ぐに延びた人気のない道の果てに、巨大な城か、はたまた角ばった山のような影が現れる。天を突き刺そうとでもしているみたいな、摩天楼の群れだ。
「キノン、あの場所はなに?」
 運転手の腰に手をまわしていた若い人間が尋ねた。キノンと呼ばれた女は、からかうように、軽く笑うと前を向いたまま答えた。
「ふっふっふ。驚くなよ。愚かな人間達の知恵の結晶さ。奴らは最先端の技術だって嘯(うそぶ)いているけど。ま、そのおかげで、あたしたちもこうやって車に乗ることが出来るんだけどね。あそこはさ、……あたしの故郷なんだよ」
 同乗者は口を噤む。
 風が強い。近づく都から、うなるような音がした。建物の隙間を風が縫い、鳴いているように聞こえる。
「なあ、センリ」
 キノンが、二輪車に乗るときにつける眼鏡に手をかけ言った。
「あんたとは、ここでお別れだ」
「うん」
「最後にぱあっと観光と行こうや」
 センリと呼ばれた同乗者は、それには答えず顔を背にうずめた。

 街は、廃棄瓦斯(ガス)の匂いと騒音とで満たされていた。歩道は、せわしなく歩く人達であふれている。高速で走り抜ける車と、人々の鳴らす靴音に話し声、人工の演奏会は、聞くに堪えないほどに騒々しい。
 話が聞き取りづらいため、二人は先から口を閉ざしていた。
 都の中心部までくると、巨人の足ほどに高い混凝土(コンクリート)の塔の群れが、物言うことなく二人を見下ろしていた。
 しばらく走っていると、やがて人通りの少ない、さびれた商店街へと着いた。入口付近で、キノンは二輪車の速度を緩め、止めた。
「こんなところに人がいるの?」
 センリが車上から降りながら尋ねた。
「あたしが生まれたところが、この近くの住宅街なのさ。さて、生きてるといいが。おーい、おやじさん、いるかい!」
 一つの店に向かって、キノンは大声で呼びかけた。店の看板には、キノンが乗ってるような車の絵が描かれていた。
「そんなでっけぇ声ださんでも、聞こえとるよ!」
 店の中から、少しかすれているが快活な男性の声が返ってくる。
「入んな!」
 キノンが二輪車の背を押し、縁石を乗り越え店の戸を開く。センリもすこし遅れてついていった。
 古びた店内には、キノンが乗ってきたのと同じような機体が、そこかしこに並んでいた。街で走っていたような新品は、ひとつも置いてなかった。
「おお、ひさしぶりだな。キノン」
 帳場の奥から声をかけたのは、ひどく痩せた壮年の男だった。
「ここもひどく寂れちまってな。残ってんのはここと、帽子屋くらいなものだ」
「たったそれだけなのかい」
 キノンは驚いたような声をあげ、「じゃあ、みんなどうしてるのさ」
「あの巨人の足の中で働いているさ。そりゃ、血眼になって、いまにも死んじまいそうなほどにやつれ果てた姿でな。それよりも、整備だろう。貸しな。数時間、観光してれば終わる」
「恩に着るよ」と、感謝を述べ、次に彼女の口から出たのは溜息だった。「どうりで、こんなに急速に発展してるわけだ。運び屋でよかったとつくづく思うねぇ」
「そいつぁ、皮肉かい」
「いや、あんたらも、外出ろってこと」
「故郷捨てることなんざ、できねぇよ」
「こんなところ、故郷と思いたくないねぇ」
 センリは先から口を開かない。二人の、懐かしい再会に、話題の花咲き、「ん? そこにいるのは」と店主が気づくまで、まるで人形のように傍で立ち尽くしていた。
「ああ、ごめん。二人だけで盛り上がっちゃって」
 キノンはセンリの傍に寄って、肩を抱く。
「こいつは、センリっていうんだ。ちょっと人見知りでさ。旅人やってるんだと」
「旅人、ねぇ……」
「あの」
 背の低い寡黙な旅人が、はじめて口を開いた。
「私、悪魔を探しているのですが、ご存知ありませんか」
「………………」
 急に店主の顔が凍りついた。まるで、憎いものを睨むような目を、センリに向ける。
「行くよ」
 とキノンがセンリの背を押した。
「おじゃまたね。また伺うよ」
 店を出ると、センリはキノンに尋ねる。
「訊いちゃいけないことなの?」
「ああ、あたしが言わなかったのが悪かった」
「キノンが謝ることないよ」

 車屋を後にして、二人が訪れたのは、先に話に出た帽子屋だった。
「前はおしゃれだって、人が並ばない日は無かったくらいだったんだけど」
 婦人が麦藁帽をかぶっている影絵の看板を見て、キノンは顔をしかめた。閑散とした商店街に、人の姿はない。ゆえに、どのような店においても、客がなかったのだ。とはいえ、二店だけなのだが。
 チリンと乾いた鈴の音と共に扉を開けると、出迎えたのは、顔にいくつもの皺が刻まれた、とても若いとはいえない歳の女性だった。
「あらあら、まあまあ。キノンちゃんじゃないの。久しぶりねぇ。まあ、こんなに大きくなっちゃって」
「一年くらいしかたってないですよ」
「あら、まだそんなかい。いろんなことがあって、もっと経ったのかと思ってたわ。ところで、そちらの可愛い子は?」
 いかにも興味津々という目で見られ、センリはうつむいた。
「この子はセンリ。悪いね。ちょっと人見知りするんだ。こんななりでも、旅人だ」
「旅人、ねぇ……」
 女店主は、車屋の主人と同じように、怪訝そうな声で言った。
「こんな場所にくるとは、物好きなことね」
 旅人は、今度は口を開かなかった。
「ええと、それより」とキノンがセンリの前に出て言う。「こいつのためにさ、一つ帽子を買ってやりたいんだよ」
 どこか沈んだ面を浮かべていた店主は、急に人が変わったように目を輝かせた。
「どれでも好きなのを持っておいき。お代なんていらないわよ。もう、店を閉めるつもりなの」
 キノンとセンリは、浮かない表情で種々雑多の帽子の連なりを眺めてまわった。店主は、、店の奥に消えてしまった。本当に代金はいらないようだ。
 珍しいものでも見るかのような目つきで、センリは棚を見て回った。と、その頭に、不意に何かが被さった。
「ほれ、こんなのはどうだい」
 キノンが姿見の方へ、センリの身体を向けた。真っ暗な、夜をまとった小柄な旅人が、そこにはいた。帽子は、魔女のつけるような、ツバつきの三角帽子だった。色は衣と同じく、黒だった。
「帽子はね、人を悪い者から守ってくれるんだよ。雨風に雪、そして、人の目からもね。隠れるためじゃないよ。逆だ。どうどうと出歩くためにゃ、もっと大人に見せないとね」
 バンとセンリの肩を叩き、
「うん。似合ってるよ」
 センリは目深に帽子をかぶって、顔を隠した。

 再び商店街へと出ると、いつの間にか、辺りは深い闇に包まれていた。
「あれ? もう、こんな時間だっけか」
 キノンが、空を細めた目で見上げ言った。天を雲が包み込み、星空は拝めなかった。
 嵐の日などは、厚い雲により、大地に差す光が、ことさら弱くなる。しかし、それとは比にならないほどに暗かった。灯りがなければ、辺りに何があるか見通すことはできなかっただろう。
 センリは、帽子のツバをすこし上げ、じっと都の中心を見つめていた。摩天楼に明かりが灯され、燦然と輝いている。都そのものが、小さな太陽のようだった。
「さて、とりあえず寝るとこを探さないとだね」
「車もないのに、どうするの?」
「ん? ああ、こういう進んだ街には、公共交通機関ってもんがあるんだよ」
 混凝土の塔郡に向かい歩きながら、キノンは言った。センリは首をかしげながらも、いずれわかると、着いていく。
 目的地はすぐそこにあった。一見すると、ただの看板のよう。だが、いくつもの時刻が刻まれていることから、何らかの目的をもってそこにたっていることが分かる。上のほうには、現在地と行き先が、人の字とは思えないほど丁寧な自体で書かれている。
「これに乗っていくの?」
 センリが呟くと、キノンは大笑いした。それは楽しそうに、腹を抱えて笑った。
「そんな笑わなくても」
「あっはっは。だってさぁ。ここは箱車(はこぐるま:バスのこと)の停車所でさ、ほら、丁度来た。あれに乗るんだよ」
 ようやっと落ち着いて、指差したところから、二つの光る眼が近づいてくる。ガタガタと音を立て、近づいてくると、輪郭が見え、大きな箱型の乗り物であることがわかる。悲鳴のような音をあげたあと、箱車は止まった。
 一仕事終えた溜息であろうか、プシュウと歯の隙間から息を出すような音を立て、乗降口が開く。誰も降りてくる気配はない。キノンに従って、センリは小さな箱の機械の口からでた、数字の書かれた券を手に取りながら、車の口の中へと入り込んでいった。
 乗客は、キノンとセンリの他にはいなかった。奥の、五人くらいは座れそうな座席を、二人占めする。
 またプシュウと、今度は仕事のはじまる辛さゆえの溜息か、扉が閉まり、箱車が動き出した。
 鉄の鎧をまとった車は、苦しそうな音をたてながら速度を上げていく。横に縦に揺れ、うなるような声をあげながら、進んでいく。
 道中、いくつかの停車場が見えたが、箱車が止まることはなかった。
 旅の疲れだろうか、しばらく二人は口を閉ざしていた。連なる建物が高層へと変わっていく。
 と、キノンがふいに呟く。
「あたしも、しばらくあんたと旅しようかね」
 センリは驚いたような顔で彼女を見やる。キノンは運転席の方を見据えたままつづける。
「あんたの行く末を見届けたくなってさ」
「だめだよ。だって……」
「一人じゃきついだろう」
「……でも」
「あたしが行きたいんだよ」
 キノンが、センリを強い目で見つめ言った。センリの目から、涙の粒が一つ落ちた。運び屋の女は、小さな旅人の肩を優しく抱いた。
「悪魔がなんだっていうんだい。人一人の気持ちを弄ぶなんて。あたしゃ、黙ってみてることなんざできないよ。あたしは、センリを助けたいのさ」

 混凝土の楼閣の立ち並ぶ通りで、車は止まった。
「降りるよ」
 キノンが手を引き、センリを乗降口へと導いていく。代金は彼女が払った。いくつもの小銭が、箱型の機械に吸い込まれていった。運転手は、前を見たまま何も語らない。キノンが「ありがとね」と声をかけて降りた。センリも一礼してから、彼女についていく。
 箱車は、また歯と歯の隙間から息を噴出すような音を立てて、口を閉じ、悲鳴を上げながら土瀝青(どれきせい:アスファルトのこと)の道の上を、小刻みに揺れながら車輪を走らせていった。
「さて、今日はこんなに暗いし、街巡りは明日にしようか」
 空はより一層、暗さを増していた。光り輝く摩天楼の灯りさえも飲み込んでしまいそうなほどに、深い闇が立ち込めていた。空は真っ暗な衣が覆ったようで、雲さえも見えない。
「近くに宿場があったはずだ。働く奴らのためのやっすい宿でさ、すこし狭いけど、構わないかい」
「センリと一緒なら」
「はは、うれしいこといってくれるねぇ」
 キノンがセンリの背をバンと叩いた。
「痛いよ」
「その痛みは、あたしの喜びの現れさ。……ん?」
 ふいにキノンは足を止めた。豪華絢爛な装飾の建物の口の前だった。
 自動扉の脇に、一人の子供が腰を下ろしていた。顔はうつむけ、ひざを抱えている。髪は肩の少し上くらいの長さの黒髪で、一目で性別は分からない。
 彼、もしくは彼女がいるのは、ちょうど感知器が動作するかしないかの境目のようで、扉は開いたり閉まったりを繰り返している。
 照明がチカチカと明滅していた。硝子戸の向こうに人の姿はなかった。
「誰だろう」
 センリが呟くと、キノンが訝しげな顔をして「さあね」と言う。彼女は子供の傍に行き、
「どうしたんだい。こんなところで」
 と、優しく声をかける。
「どうしたんだろう」
「両親は?」
「いないよ。みんな死んじゃった」
 子供の声は、センリのと少し似ていた。センリはキノンの後ろで目を見開いていた。身は震え、蒼白な顔をしていた。
「お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、もうすぐ産まれる弟か妹も、みぃんな死んじゃった」
「そいつは……。とにかく中に入んなよ」
「だあれもいないよ。みぃんな死んじゃった」
「いや……」
 センリが小さな声で言った。
 子供はゆっくりと顔を上げた。
 その顔は、
「やめて!」
 小さい頃のセンリの顔だった。
「どうしたっていうんだい」
 キノンが眉根を寄せて、センリを見やる。
「みんな、……そう、あなたも」
「えっ?」
 彼女が振り返る。
 刹那、子供がキノンに突進する。
 その手には、小刀が握られていた。
 それは、深々と、キノンの腹に沈み込んでいた。
 衣が赤く滲んだ。
 赤い花が咲くかのように、染みは広がっていった。
 刀が抜かれると、鮮血が、噴水のように飛び散った。
 キノンは力なく倒れた。
 何が起こったかわからぬままに、地面に吸い込まれるように。
 幼い頃のセンリの顔をした誰かが、声を失ったセンリに近づく。
「かわいそうなセンリ。また独りになっちゃったね」
「…………」
「ねえ、人ってどうして夢を見るのかな」
「…………」
「なんで人は人を助けようとするのかな。どうして人は人を殺しちゃうんだろう」
「…………」
 小さな旅人が口を開くことはなかった。答えることができなかった。
 呆然とし、その視線はただ一人、横たわる者に向けられていた。
「待っててね。あなたの番はもっと先だから。あなたはあたしのおもちゃになるの。そしたら、存分に遊べるわね」
 子供は、否、悪魔は呟くと、霧のよう闇に溶け、消えた。
 センリは重たくなった人を抱えた。
 しばらくずっとそうしていた。
 泪はこぼれなかった。
 かすれた声でキノン、キノンと呼び続けた。
 運び屋の女は目を覚ますことはなかった。
 ポツリと地面を雨粒が叩いた。


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