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灰羽連盟 二次創作 幸せの果実 最終話

05 21, 2011 | Posted in 灰羽連盟 | Thema 小説・文学 » 二次創作:小説

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 灰羽連盟BD発売記念企画に投稿させていただいている作品の最終話となります。企画ページはこちらより。
 完結できたのはhanenosuさんはじめ、読者の皆様のおかげです。感謝してもしたりません。未熟な作品ですが、よろしければ最後までお付き合いくださいませ。灰羽連盟が、さらに多くの人に愛されること、あわよくば、これからも何らかの展開があることを祈って。
 ちなみに、字数は12000字ほどとなっております。

【前作】
幸せの果実 第零話
第一話「灰羽・名前・巣立ち」
第二話「罪の輪・セツカの仕事・礫」
第三話「一人前・街の歌・最後の仕事」
第四話「喫茶店・残された者・クウの面影」
閑話「鳥・世界のはじまり・海の星」
第五話「話師の目・生まれた場所・黒羽」
第六話「白・光・禍」


【あらすじ】
 行方をくらましたセツカを追うサユキ。
 双の名の意味とはなにか。堅く結ばれた絆は、罪の輪を解く鍵となるか。
 花よ咲き誇れ、幸せの果実よ、実りたまえ……
 


幸せの果実 最終話
~小さな幸せ・光る果実~


【砂粒ほどの】
 サユキへ

 あなたがこの手紙を読んでるころ、私はもうここにはいないでしょう。ずっと前から誰かが呼ぶ声がしていたのです。私には、その声に抗うことが、できませんでした。
 もう、会えないのでしょうね。遠い向こうに行ってしまっても、あなたは一人でやっていけますよね。サユキはとっても強いから。いつも、あなたを見ていた私が言うのだから、間違いありません。
 私がむかえるのは、おそらく巣立ちの時ではないでしょう。ですが、別段怖いといった気持ちはないのです。ずっと前から決まっていたことですし、覚悟は出来ています。
 私はいくつも罪を犯しました。罪憑きになってしまうのは、至極当然のことです。まず、嘘をついてしまったこと、謝らなくちゃいけませんね。といっても、バレバレだったかもしれませんけど。鈴の実の市があった週。一日だけ、オールドホームを抜け出しました。体調は問題ありませんでした。むしろ、今までで一番元気だったかもしれません。先がないと、気持ちが吹っ切れていたからでしょうか。勝手に抜け出して、ごめんなさい。あとで、みんなにも伝えておいてください。
 二つ目は、すこし思い違いをさせてしまったことです。私は、あなたと、オールドホームのみんなと一緒にいることが、苦痛でなりませんでした。私の羽は黒くて、みんなはきれいな灰色の羽。なんで私だけと、いつも胸の内にわだかまりを抱いていました。なぜみんな私に優しくするのでしょうね。心の中は嫉妬の思いにまみれているのに。
 思えば、生まれる前から、私は罪に侵されていました。まだ断片ですが、思い出せます。夢の中で、サユキと共にいたことを。あなたと一緒にいることが苦痛で、私は一人になったのですよ。自分勝手ですよね。
 夢の中で見た花、徒花(あだばな)とでもいうのでしょうか。きっとあの花が、私を誘っているのでしょう。
 最後に、サユキなら、鈴の実の意味はもう知っていますよね。念のため、あらためて記しておきます。
 ごめんなさい。
 さようなら。

禍より

追記
 この手紙の下に、紙束がありますが、そこに書かれてること、みいんな嘘です。

   * * *

 容赦なく降りつける吹雪の中、灯りもつけずに、あたしは、雪原を駆け抜ける。
 足跡は新雪にかき消され、たどることはできない。だけど、あたしにはわかっていた。セツカがどこにいるのか。
 雪の片ひとつひとつに、セツカの想いがつめこまれているような気がした。多くは来るな、という叫び声だ。しかし、その中に、今にも消え入りそうな声で、助けてと聞こえた。
(あれは、嘘だ)
 セツカの、これまで過ごしてきた日々、大切な時間すべてが嘘だったなんて。そんなはずない。
 人の心って見えないけど、それでも、たしかな想いってあるもの。こちらにまで伝わってくるほどに、強い気持ち。それをすべて隠すことができるなんて、言わせない。
 手紙の後ろには、セツカの日記が束ねられていた。何十枚もの厚い紙束に、今までの日々のことが、つぶさに記されていた。
 それを、たった一言で、なかったことするなんて、できるはずがない。
 あたしは、あの手紙の一字一句を思い出しながら、セツカと過ごしたグリの街での日々を頭の中で描いていた。

   * * *
 
 今日から日記を書き始めたいと思います。なんだか文字がうろ覚えで、汚いですね。
 あたらしい服を買ってもらったついでに、ラッカに頼んで、あとでこっそりと筆記用具を買いそろえました。オールドホームのみんなはとても優しくて、みんなと一緒にいれる時間が、私はとても好き。
 罪憑きとして生まれてきて、体調も悪くて、みんなに心配をかけてしまっていることが、心苦しくてなりません。……

 すこし前の話になります。ネムが巣立ってしまったことです。
 祝福された灰羽は壁を越えるのですって。喜ばしいことなんだと、ラッカが言っていました。でも、巣立ちのことを話すラッカは、どこか悲しげで、目頭がかすかにうるんでいたように見えたのは、気のせいではないでしょう。
 私も、なんだか夢のようで、まだ信じられません。今まであたりまえだった風景に、穴があいてしまったようで……

 またこれもすこし前の話です。でも、書いておかないといけませんね。
 灰羽連盟に呼ばれ、話師のもとへ訪れたときのことです。私は話師の謎かけに対し、なんと答えたか覚えておりません。胸の奥底から、勝手に言葉が飛び出して、私が私でなくなったような、そんな気がしたことだけはたしかです。
 私が気を取り戻したとき、サユキが必死で否定していました。罪憑きなんかじゃない、私を守ってくれる……
 うれしくて、涙がでそうでした。
 でも、心の中では正反対の思いがくすぶっているのです。それが次の瞬間にはなくなっていて、なぜかみんな悲しげな表情をするのです。
 私はなにかがおかしいみたいです。私の中に私でない誰かがいるのかもしれません。
 罪憑きって、こういうことなのでしょうね。私はいずれ……

 オールドホームには、ネムのほかにも、巣立っていった灰羽がいたといいます。それ以前にもいたのでしょうけど、ラッカに聞いた話だと、昔はあまり灰羽がいなかったとか。あくまでオールドホームでの話ですが。寮母さんにきけば教えてくれるかしら。
 クラモリ、クウ、レキ。巣立っていった灰羽の名前です。なんだか不思議な響きですね。名前を聞いただけでも、なんだか温かい衣で包まれているような、そんな気持ちになるのです。
 このゲストルーム、ほかにもオールドホームのあちらこちらに、とても綺麗な油絵が飾られています。レキさんが描いたと、ラッカが教えてくれました。絵の中に、私の見たことのない灰羽が、眠っているような気がしてなりません。……

 すこし胸が痛むこと、それでいて心温まるできごとがありました。カナの仕事場、時計屋の親方さんが、グリの街の時計塔をあたらしくしたのです。外から見ても、なにが変わったのか分かりません。ですが、時を告げる鐘が鳴り響くと、すぐにその疑問は吹き飛んでしまいます。街が歌っているのです。それは楽しそうに、ときに憂いをこめたような不思議な音色。私たちの心を投影してるのかもしれません。
 ここからでも、空気が澄んでる日に窓を開けると、遠くから美しい歌声が聞こえます。耳を澄まして、目を閉じて、いつまでも聴いていたいほど、街の歌姫は見事に、街中の観客に、音の贈り物をしてくれます。
 親方さんは、足を痛めてしまい、もう仕事ができないとか。でも、カナはそれでしょげるような灰羽ではありません。親方を超えて見せるんだって、意気込んでいます。
 頑張って、カナ。……

 サユキの仕事が決まりました。ほんとうに……うれしい。自分のことのよう。
 ああ、だめです。これ以上言葉が浮かんできません。
 おめでとう。ほんとうに、おめでとう。
 何度も伝えた言葉ですけど、とても言い足りません。
 はやく身体をよくして、喫茶店にいけるようにしないと。たくさん通って、たくさん注文して、てんてこまいにさせてやろうかな。
 私も、頑張らなくてはいけませんね。これまではサユキの分も、と考えていましたが、これからは、サユキと一緒に、です。……

 私とサユキの部屋が決まりました。初めて入ったときは、ボロボロでとてもじゃないけど住むことはできませんでした。でも、もしここが私たちの部屋だったらなと、いつも思っていました。なんだか、とても懐かしい思いがするのですもの。
 それもそのはず。私たちの生まれた部屋だったのですから。とても大きなまゆが二つもできて、お部屋も大変だったことでしょう。
 補修がなされ、生まれ変わった部屋は、廃墟のようだったあのころのおもかげはないのですが、壁の一部分だけ、思い出としてそのままにしてあります。すこしへこんでる壁を見ると、なんだかおかしくて、自然と笑みがこぼれました。
 サユキとの距離が近くなって、これからきっと楽しい日々が過ごせることでしょう。……

 季節が過ぎるのは早いものですね。
 もうすぐ冬が訪れるのでしょう。空気は急に冷たくなって、上衣なしでは凍ってしまいそうです。
 冬の気配と共に、誰かが呼んでいる気がします。それは心の中に直接流し込むように「こっちにおいで」とか「サユキといるのはつらいだろう」とか、甘い声で囁くのです。
 答える気などないのですが、声は日を追うごとに大きくなり、頻度も増し、また私が私でなくなるあの感覚に、たびたび襲われるようになりました。前は一週間に一回くらいだったのが、今は毎日のように、白昼夢に襲われ、意識がなくなります。
 枯れた花の中に私が横たわり、なにか恐ろしいことを考えているのです。
 ですが、それが正しくないと、私には言えません。
 勇気がないのかもしれません。
 心も身体も弱くて、人がいないと、生きていくことも出来ない。
 どうしてみんな優しくしてくれるのでしょう。
 優しさが、つらい

   * * *

 セツカの日記はそこで途切れていた。読んでるうちに涙があふれ、幾滴もの雫が紙面を濡らした。最後のほうの頁では、あたしが涙を零す前から、濡れた跡があった。
 その文字の連なりよりあふれる、セツカの想いが、偽りであるはずがない。
「あたしが……信じなきゃ」
 風の丘の上を見やる。あの向こうにセツカがいる。
 除雪をほとんどしていない丘には、人が通った跡がくっきりと残されていた。
 雪が深い。踏み固められてない雪に、何度も足で穴を開けてしまう。そのたびに、長靴のなかに雪が入り込んで冷たい。気は急いても、なかなか前に進むことができなかった。
 容赦なく吹き荒れる吹雪は、あたしが来るのを拒んでいるかのようだ。
 凍てつく寒さに、身体の芯まで冷えていくのを感じる。
 早く、迎えにいかないとなのに、なんと頼りない足取り。
「セツカ……セツ……カ……」
 あたしはかすれた声で呼びかける。風音にはばまれ、自分ですら喋ってるのかどうかわからない。こんな声が、届くわけがない。
 涙が零れる。頬に幾筋か細い川が伝う。
「助けに……きたんだよ。そんなところにいちゃ、寒いでしょ。セツカ……答えてよ」
 しぼりだすような声に、答えるものはいないと諦めかけたとき、
 ――こないで……。
 セツカの声が、頭の中に直接注ぎ込まれるように響いた。
「そこに、いるんだね」
 いつの間にか、あたしは夢の中にいた。寒いのは相変わらず。だけど、雪原は普通に歩けるくらい、踏み固められていた。
 セツカの声、そういえば今日は一回も聞いてなかったっけ。単純なものだ。拒む一声でさえ、あたしの心に火を灯し、再び歩む力が湧き上がってくる。
 雲が落下してきたような大雪の中、あたしは迷いなく歩く。
 夢の中、歩を進めるたびに、どこか懐かしくて、悲しい気持ちがこみ上げてきた。この雪原は、繭の中でみた光景とまるで同じ。違うのは、セツカがいないことだけ。
 セツカ……今なら分かるよ。
 あたしは誤解していたんだ。あたしが携えるのは、いくつもの砂粒の幸せ。だけど、それだけではやはり大きな幸せにはならない。小さくて小さくて、気づけもしないんだから。
 話師が嘘をついていたってわけじゃない。彼は言っていた。助言を与えることしかできないと。
 答えを探すのが、あたしの役目だったってこと。
 あたしとセツカをつなぐ名前。
 不思議だね。今まで迷ってたのが嘘のように、はっきりとわかるんだ。
 雪の帳に、セツカの影が小さく浮かび上がった。
「セツカ……やっと見つけた」


【徒花】
 私は、狭い水槽の中に捕らえられた魚。世話をしてくれる人もおらず、水は一度として替えられることがない。
 心という水槽の中は、すこしずつ黒く濁り、淀んでいく。
 逃げることができなくなった私は、やがて、息の根を止める。
 水面のすぐ近くで、必死になって、かすかに残った酸素を求める。命を紡ごうと、足掻くが、砂時計の砂が落ちるように着実と、わだかまりの心は手を広げる。私を底に引きずりこもうとする手は、今にも足元をつかもうとしている。
 いつか見た夢の中に、私はいた。絶え間なく降り続ける雪。まるで白い天井が降りてきて、押しつぶされようとしているみたい。
 苦しそうに空を舞い、懸命に重力に抗って、しかしやがて地面に吸い込まれる雪の片。鳥のように再び飛び立つことはない。
 私も、あの雪の一片とおなじだ。飛ぶことのできない鳥は、ただただ落ちるだけ。
 黒く染まりきった羽はどうなるのだろう。腐って落ちて消えてしまうのかも。
 助けは来ない。来ても、もう間に合わない。
 サユキが、息を切らして走ってくるのがわかる。
「こないで……」
 呟くが、彼女を留めることができないことを、私は知っていた。
 昔から、サユキは強情だものね。
 あれっ? 昔って……。
 ふと懐かしい想いがこみ上げてきたが、すぐに幻と消えてしまう。
 心の闇が、私の記憶を暗雲のように覆っていく。黒い舌がのび、私であった証を、飲み込んでいく。私がどこにいたか、一緒に過ごしたみんなのことも、すこしずつ、ろうそくのろうが溶けていくみたいに、消えていった。
 そして、サユキのことも……。
 二匹の蛇が、互いの尾を喰らう絵を見たことがある。罪の輪とは、この二匹の蛇で、私は彼らの作り出す輪の内側にいる。
 自らの命など顧みず、さらに相手の尾を飲み込んでいき、輪は次第に狭まっていく。私という、たった一人の獲物を喰らうために。
 罪の輪は固く、あちらこちらに自らがつけた鍵がかけられている。
 あなたに開けられるかしら。
 遅れてきた、小さな灰羽を見やり、私は冷笑を浮かべた。
 さあ、はじめましょう。
 実をつけることなき、徒花の宴を。

「セツカ……助けにきたんだよ。ねえ、帰ろう」
 小さな灰羽が、息を切らしながら走り、近寄ろうとする。しかし、突如生え出た茨の壁に、足を止める。赤に白に黄に……所狭しと極彩色の薔薇が咲く。
「セツカ? だあれ、それ?」
「君の名前だよ」
「禍を育てる灰羽のこと?」
「違う!」
 薔薇の花は溶けるように枯れ、倒れていく。
 彼女はその残骸を乗り越える。だが、すぐに巨大な向日葵が四方八方を囲み、彼女を見下ろす。種はない。真ん中に大きな谷ができ、巨大な黒の眼がのぞいていた。
「セツカはもういないわよ。あなたの知るセツカはね」
「そこにいるじゃないか」
「ねえ、あなた。枯れてしまった花は、花といえる?」
 子孫を残す術を持たぬ花は、天から光を授かると信じ、屹立(きつりつ)するが、やがてそれが叶わぬと知り、茎を折って地面に還る。
「枯れた花を、生きている花と同じように、あなたは思うことができる?」
 言葉は禍の種となり、あらたな徒花を生み出す。芽吹いたと思えば、時間を早回ししたみたく、瞬時に育ち花咲かせ、老いて枯れては花散らす。
 春夏秋冬の花弁が入り混じり、毒々しく雪原を彩っていく。花の片は、雪に触れては黒く染まる。
「あなたの知る雪の花は、もう枯れてしまったわ」
 蔓がのび、枯れては新たな蔓がはうように覆い、私を包み込んでいく。
「あまりの寒さに耐えられなくなっちゃったのかしら。ほんと、弱弱しくて笑っちゃいそう」
 小さな灰羽はもう見えない。
「無駄よ。もうなにもかも」
「あなたは、来るのが遅かった。いえ、たとえもっと早く来たって、なんにも変わりはしなかった」
「もう帰りなさいな。ここにいてどうなるの?」
「帰れ」
「消えてしまえ!」
「もう、私に……かまわないで」
「あなたが、もぉっと憎くなっちゃうから」
 花の檻は隙間なく、中には私一人だけ。
 彼女の声は届かない。
 嗤(わら)い声がむなしく響く。
 またひとりぼっちになった。
 寂しくはなかった。
 寒くもない。
 枯れた花が、枝が、蔓が、その手をのばす。
 もとが何の花かさえ分からない。
 臭気を伴った徒花の口が、ゆっくりと、私を飲み込もうとしていく。


【待つもの、信じるもの】
 窓がガタガタと音をたて揺れる。風が吹き荒れ、うなるような声をあげていた。まるで空が怒り狂って暴れているみたい。こんななかでも眠れるんだから、子どもってすごい。
 カナはさっきから、ゲストルームの端から端へ、落ちつかなげに、往復運動を繰り返している。しきりに懐中時計を取り出しては、「遅い」と呪文のようにぶつぶつ呟いていた。
 わたしとヒカリは、椅子に隣り合って座り、窓の向こうで雪の片が踊るのを、じっと見つめていた。
「よく眠れるよな。あいつら」
 ゲストルームの片隅で、雑魚寝している子どもたちを見ながら、カナがぼやく。
「カナも寝れば」
 あきれたようにヒカリが言った。
「あたしがこどもだってか」
「こどもじゃないなら、静かに待ってなさいよ。そんな怖い顔してたら、帰ってくるものも帰ってこなくなっちゃうわよ」
「へいへい」
 カナは不満げな顔をして、私とヒカリの向かいの椅子に腰かけた。
「しょうがないよ、ヒカリ。わたしだって、不安……」
「わたしは信じてるもの。あの二人なら絶対帰ってくるって。だって、そうするしか……わたしたちには待つことしか、信じることしかできないんだから」
 しぼり出すような声で言うヒカリを見て、わたしは胸をつかまれるような心地がした。
 嵐は収まる気配を見せない。オールドホーム自体がかすかに揺れ、小さな地震が続いてるみたいだった。
「なあ……やっぱり迎えに行ったほうが――」
「だめよ」
 カナが言うのを、ヒカリがぴしゃりとさえぎる。サユキが飛び出し、カナが真っ先に追いかけようとしたのを止めたのも、ヒカリだった。
「どこに行ったかわかるの?」
 ヒカリが決まり文句のように言うと、カナは押し黙る。彼女も、うすうすと理解しているのだろう。あとは二人に任すしかないと。自分にできることは何か、探しても見つからない。そのもどかしさは、私も痛いほどわかる。
 ヒカリとカナは、互いに不満げな視線を交わす。喧嘩するほどなんとやら、というが、今くらいは、穏やかな雰囲気でいてもらいたいもの。
「ねえ」と私は提案する。「二人が帰ってきたら、多分すごいお腹すかせてると思うの。だからね、二人のために料理つくったらどうかなって。とびきり豪華なの」
 ヒカリが手を打って、「そうよ」と大きく頷いた。
「いっつもみんなすぐに寝ちゃうから、いつの間にかお祭のあとのお祝いがなくなっちゃってたし」
「ええ、でも二人帰ってくるまで、どれだけかかるかわからないんじゃ」
「だったら、遅れた分だけ、お仕置きとして、お腹壊しちゃうくらい食べさせちゃえばいいのよ」
 ヒカリが言うと、「なるほど」とカナはいつもの元気を取り戻した。
「よしきた。じゃあ、あたしは景気よく鐘を鳴らして」
「子どもたちが起きちゃうからダメ!」
 いつもの二人に戻って、自然と笑みが浮かんだ。
 結局、豪華な料理のかぐわしい匂いにつられて、子どもたちが起きてしまった。
「なんだろ、この匂い……」「ずるーい! あたしたちにないしょにして」「ぼくもたべさせて」「わたしもー」「まちきれないよー」
 と、いつの間にやら、てんやわんやの大騒ぎ。
「これじゃ、ちょうどいい量になっちゃうね」
 食器を運びながら言うと、カナとヒカリが「ほんとだ」と口をそろえて笑った。
 ふと、窓の外を見やる。風はさらにつよくなり、時折、ヒュウと鳴いた。
「おーい、ラッカ。なにやってんだ」
 手を止めていた私をみて、カナが声をかける。「なんでもない」と答え、皿をまたカチャカチャとならす。
 セツカ、サユキ。いつでもよいから帰っておいで。私は心のなかで、この思いが届きますようにと祈った。


【幸せの果実】
 枯れた花の檻が、眼前に立ちはだかる。腐りはて、触れると簡単に折れ、溶けたみたいに地面に横たわる。
 あたしはまだ信じられなかった。セツカの一言一言が、頭のなかでぐるぐると渦を巻く。
 セツカではなかった。あたしの知ってるセツカでは……。
 ほんとうに、もうなにもかもが手遅れだったの?
 だとしたら……。
 あたしは振り返ることはなかった。
 終わったなどとは思わない。諦めることなどできない。
 果てるなら、セツカと一緒がよかった。孤独に、耐えられる自信がなかった。
 海を泳ぐように、花の壁を掻き分け進む。茎は面白いように道を開けていった。しかし、またすぐに新たな花がのび道を塞ぐ。枯れた花の残骸が、嘲笑うかのように、山となりそびえる。いや、ほんとうに嘲笑しているのだ。
 甲高い声で、花々が震え、笑っている。数え切れない嘲り声。重なり、こだまし、不協和音を奏でる。
 その声は、どこか苦しんでるような色を含んでいた。
 なおも、あたしは前に進む。しばらくすると、花の檻、その核へとたどり着いた。黒き茨が、蔦が、交差して殻をつくっていた。その隙間から、かすかにセツカが見えた。うつろな目でこちらを見つめている。
「セツカ!」
 あたしは呼びかける。セツカは口を閉ざしたままだった。
 今まであたしを押し戻そうとしていた花が、後ろからも生え出し、あたしを囲んでいくのが分かる。構うものか。逃げ道など、必要ない。
「セツカ! 返事をして!」
 幾多もの、種子を抱くことなき雌しべが、あたしを見つめている。輪は徐々に狭まっていく。
 あたしは檻をつかみ、叫ぶように呼び続ける。
 茨のとげが突き刺さるのがわかる。こんな痛み、わけない。彼女が抱いた苦しみと比べれば。
 腹の底から、すべてをしぼりだして、あらん限りの声でまた呼びかける。
「セツカ! 応えてよ! お願いだから……ねぇ、帰ろう」
 息が切れそうになる。声がかすれて、彼女に届いているもわからなかった。
「せつ……か……」
 指先から赤い水がたれる。手がかじかんで、痛みは感じられなかった。
 と、そのとき、
「私なんて、助ける価値もない」
 囁くような声が聞こえた。ふっと、花の笑い声が、豪雨が降り止むように収まった。
「私は罪を持った灰羽だから」
 連盟寺院に訪ねたときも、セツカは同じことを言っていた。
 セツカの声に、絶望の色はなかった。今にも消え入りそうな、すべてを諦めてしまった人の声だった。
 それでも、
「やっと、こたえてくれたね」
 あたしは微笑む。
「そんなこと、ないよ。セツカに罪なんてない」
「私の名前は禍。禍を育てる者。そうなのでしょう……」
 セツカに、あの札を見せた覚えはない。では、なんで彼女は知っている。
 あたしは、はっとした。そうか……あの名前は、
「セツカが考えた名前だったんだね」
 首を振り、あたしは言う。「違うよ」と。
 セツカの名前は、そんな名では決してない。
 心の中で、一つの答えが咲いた。
 あたしが名づけてあげる。
「『晢果』。光る果実。それが、あなたの名前」
 そしてその名は、
「なんで気づかなかったんだろう。同じ夢の中にいたのに」
 名前の持つ意味が一つだけというのが、そもそもの間違いだったんだ。
「あたしの小さな幸せと、セツカの光る果実
『幸せの果実』
 それが、あたしたちの名前の、本当の意味」
 あれっ。変だね。なんで涙がこぼれるのだろう。
「幸せの果実……」
「そうだよ。ごめんね。あたし、セツカがいきなり変わってしまったのかと思った。でも、ずっとセツカはセツカのままだったんだね」
 涙の粒が地面に吸い込まれる。枯れた花に触れた瞬間、花は淡い光を放った。
 もとある色を取り戻し、光は波紋が広がるように伝っていく。
 花は実をつけていた。
 蔓と茨の檻が、扉を開くように隙間をつくる。
「こないで!」
 間に阻むものがなくなり、セツカは叫んだ。
 彼女はおびえていた。
 あたしは、一歩一歩彼女のもとへと近づいていった。
 もう、苦しまなくていいんだよ。

     *

 私は真っ黒な夢の中にいた。光という光が闇に食べられてしまったみたい。ここがどこかも、私自身が本当に存在することさえ確かめられない。
 声だけは、かすかにだけど聞こえた。時折空から降ってくる。誰の声だっけ。
 ――晢果……。
 そう……それが私の名前なのね。
 だけど、光は既に消え、果実が落ち、種を芽吹かせる地面もない。
 涙がこぼれたような気がした。悲しいからでも、苦しいからでもない。なんでだろう。声が、彼女が呼んだ名が、ひどく懐かしく思われるのは。
 ――幸せの果実。……あたしたちの名前の本当の意味。
 また声が降りてくる。
 幸せの果実……。
 その名の響きに、心の中にぽっと灯が灯されたような気がした。また目頭が熱くなる。
 黒い空から落ちてくる声も、涙を含んでいるのが分かった。いや、本当に泣いているんだ。
 額にポツリと雫が当たる。見上げると、綺麗な星粒が落っこちるように、ひとつ、またひとつ、水滴が線をひく。
 かすかな光なのに、闇に溶けることなく、私の元へと吸い込まれ消える。
 ――ずっとセツカは、セツカのままだったんだね。
 そう……そこにいるのね。
 私をずっと呼んでたのは、
「サユキ。サユキなのでしょう」
 闇の海を泳ぎ、かきわけて、上へ上へ、光の雫湧く泉へと。
 夜の世界の水面には、私の姿が映し出されていた。
 自らつくった檻に閉じ込めて、独りなんかいやなのに、独りを望んだ私。
 ごめんね。さびしかったよね。苦しみを受け入れようとしなかったから、受け入れるのが怖かったから……私は逃げた。
 もう逃げはしないと誓い、手を伸ばす。だけど、ああ、黒の海の水面は遠すぎて。
 もう、戻れないの?
 光の泉は遠くなる。
 瞼をおろす。
 底へ底へと沈んでいく。
「サユキ……」
 双の泉に涙をたたえる。私は声を絞り出す。
「たすけて……帰りたいよ……」
 声は闇に溶け、反響することなく消えた。
 眠気に襲われる。
 諦めかけて、それでも名残惜しく手を伸ばす。
 と、その手を引くものがあった。
 身体がとても温かい。まるで誰かに抱き締められているみたい。
 無理よ。もう、息もできないのに。
 泳ぐ力もない。ただ重くなっていく私を、懸命に引き上げていく。
 目もくらむほどの光の扉が、遠くで開いた。
 そうだった。サユキは昔から諦めが悪くて。
 勇気はあるけど泣き虫で。
「セツカはいつもあたしを守ってくれたよね」
 そうそう。だけど元気付けられたのは、いつも私の方だった。
「あたしがいないと、それだけで家中探して大騒ぎになったり」
 恥ずかしいこと思い出させないでよ。
 あれっ。この記憶はなに?
 走馬灯のように、記憶の欠片は海の底に消えていく。
 私は瞼を開いた。肩にサユキの頭が乗っていて、背には手がまわされていた。
 同じようにサユキを抱き締める。
 温かい。
 まわりでは、雪原の上に色鮮やかな花々が咲いていた。
 枯れることなく、力強く根をはり、新たな実を結び、種を抱く。そんな未来がありありと頭の中に浮かんだ。
 小さな身体、サユキの体重を感じながら、私は「ただいま」といった。
「遅いよ。バカ!」

 雲の合間から日がのぞき、いくつもの光の帯が垂れていた。
 私とサユキはしばらく、四季の花畑を歩いた。花々についた水滴が、陽光を受けてきらきらと輝いていた。花のない場所を探して歩いていると、「踊ってるみたい」とサユキが言って、私はくすくすと笑った。
「ずっと昔ね、セツカと、こうして歩いてた気がするの」
 私も同じ事を考えていた。なんだかとても懐かしい。そう、闇の海を抜け出すときに、一瞬だけ見えた……しかと思い出すことはできないけど。
「灰羽になる前」
「うん」サユキがくるりと回って、私を見つめて頷く。「でも、どうして忘れちゃったんだろうね」
 彼女の目頭がすこし光った。
「泣いているの?」
 訊くと、サユキの頬に一筋の川が伝った。
「あれ、どうしてだろ」
 私はサユキのもとへ近寄って、そっと背に手をまわした。
「うれしいのに、涙がとまらないや」
「うん」
 サユキのすすり泣く声が聞こえた。私も、いつの間にかもらい泣きした。
「私……ここにいて……いいのかな?」
 あたたかい。春のような日差しも、サユキの体温も。
 あたたかくて涙がでる。
「オールドホームに帰りたい。みんなに……会いたい」
 ラッカ、カナ、ヒカリ、子どもたちの姿を思い浮かべて、また泣いた。
「私……サユキと一緒にいたい」
「うん。帰ろう。あたしたちの家に」
「あと、もうすこしだけこうしてから」
「セツカったら、わがままなんだから」
 サユキは少しだけ笑って、頭を深く胸にうずめた。
「とっても綺麗な灰羽だよ」
 私はしばらく、子どものように泣いていた。

   * * *

 過ぎ越しの祭の日に襲った大吹雪は、街にいくつか爪あとを残しました。誰も住まず、雪下ろしの手が回らなかった家が、いくつかつぶれてしまったのです。幸い犠牲者はなく、それよりも、オールドホームがびくともしなかったことにみんな驚いていたとか。
 大雪は峠を越しました。新年の初めに顔を出したお日様は、とても冬とは思えない、あたたかな日差しを届けました。うららかで、春が来たかと勘違いしてしまうような陽気に、雪の上で昼寝をする人が続出したそうです。
 次に噂になったのは、風の丘の向こうに、突如として生まれた花畑のことでした。はじめに見つけた青年が、天然のベッドに寝転ぼうとしたとき、留める声が聞こえました。声をかけたのは二人の灰羽でした。彼はごめんなさいと頭さげ、灰羽たちは優しく微笑み、それは仲良さそうに手をつないで丘を下っていたといいます。
 なんだか心が満たされるような思いを抱きながら、青年は街をめざしました。花畑のことを知らせるためです。もちろん、荒らしちゃだめだと言い添えるつもりで。
 風の丘には、あっという間に人々の行列ができました。彼らは花々を眺め、冬が終わりを告げたのだと確信しましたとさ。
 と、まだ話は終わりでは有りません。
 彼らのうち、幾人かが、ぼうっと空を眺めていました。花々に見とれていた人々も、つられて空を仰ぎ見ます。雲ひとつない蒼い天井に、それは綺麗な流れ星がひとつ。
 光はまっすぐ線を引き、オールドホームに落ちていきました。
 さて、この後のお話は、またの機会に……

     *

 幸せの果実。
 これは二人の少女の物語です。
 ひとりは花に祝福を与え、光る果実を実らせる者。名を晢果といいます。しかし、彼女の力だけでは、花は枯れてしまい、育つことも、新たな命が芽吹くこともありませんでした。
 途方にくれる彼女に力を貸したのが、もうひとりの少女。豊かな水を与え、幾多もの、小さな小さな幸せの種を実に宿す、ゆえに名を些幸といいました。
 幸せの種を、抱えし果実は、やがて地に落ち、新たな命と変わります。健やかに、伸びやかに育ち、実らすは幸せの果実。
 皆の幸の糧となり、灰羽が無事巣立つための礎となりて、くる年くる年、少女の手にて育てられたそうな。



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樹

似非店員:樹
百合と眼鏡が好きな人です。
日本語、和風なものも大好物。
掲載しているものは、主に百合もの、ファンタジー小説となっております。
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