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旅のカケラ 大橋談話

02 06, 2011 | Posted in 旅のカケラ | Thema 小説・文学 » オリジナル小説

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長らく間があきました。旅のカケラ六話目となります。
とはいえ、時系列バラバラなので、どの話から読んでも大丈夫となっております。「ガレキの都」「鉄の馬」を読んでおくと、つながりが見えてくるかと。
字数はこちらでは標準的な4000字程度に落ち着きました。ですが、この旅のカケラの中では一番長く、また、これからすこしずつ量が増していく恐れが……。基本的には、短めでうまく詰め込めれば良いと考えてはいます。
また今作は、会話が主体となっています。余計な文を削ろうとしたら、こうなりました。どうでもいい話ですが、受験生は見ないほうがいいかも……。
と前置きはこれくらいにして、以下より本編です。



旅のカケラ
~大橋談話~


 真昼の空の下。巨大な石橋の上を、一台の二輪車が走っていた。背には二人の人間を乗せている。
 石畳は、人が縦に十人は寝転べるほどの幅。地平線の向こうまで伸び、果ては見通せない。周りを囲う海は、陽光を反射し宝石のように輝いていた。あるいは、真昼の星空とでも言えるような光景。今にも吸い込まれてしまいそうなほど……。
「キノン。あとどれくらいで着くの?」
 運転手の背につかまっていた人間が問うた。
「あと一日もすれば着くよ」
「燃料は持つの?」
「ああ、それは心配しないでいい。いざとなったら換えもあるし」
「その前に車のほうが壊れるかもね」
「縁起でもないこと言うなよ!」
 キノンが後ろに向かって叫んだとき、ぶすっといやな音が響いた。二輪車は徐々に速度を落としていく。
「え……ちょっと待てって。うそだろ!」
 加速装置を動かすが、二輪車は目覚めることなく、やがて眠るように沈黙した。
「すまん、センリ。もうしばらくかかりそうだ」
「構わないよ。それより、治せるの?」
 機体から飛び降り、工具をあさるキノンに、センリは尋ねた。
「ん、ああ。こいつは橋の向こうで手に入れたもんで、変な術で動くって車屋のオヤジが言ってたよ。おかげで燃費がすこぶるいいんだ」
「それってかなりうさんくさいんじゃ……」
 センリも機体から降りる。
「定期的に整備しないと駄目っていうのが面倒で、つい放置してしまうんだ。それで、よくこうして止まる。段々とその間隔が短くなってきたのは……気のせいだろ」
 おおらかなキノンに、センリは何も言わずただ肩をすくめた。
「こいつは……数時間はかかりそうだね」
 ガチャガチャと黒い車体をいじる音。センリは訝しげな視線を送った。
「寿命なんじゃないの?」
「そんなことないさ。しばらく押して歩いていればそのうち走れるようになるよ」
「本当?」
「なんたってあの先進国の一品だからね。整備はほとんど自動でやってくれてるんだ。まるで生きてるようにね。そりゃあ、しばらくしたら検査してもらうけど」
「橋の向こうの……」
「そ、大切に使ってりゃ、ずっと使えるとの触れ込みさ」
「大切に使ってないような……」
「……さ、行こっか」
 有無も言わさぬ調子で、キノンは車体を押して言った。センリもあわててついていく。
「しっかし大きい橋だな。何度も渡ってるのに、その度に大きくなってるような」
 二輪車の話題はおしまい、とでもいうかのように、大げさにあいている方の手を広げた。
 橋は欄干がなかった。開放的な空間が、石橋の巨大さをさらに強調する。なにかの遺跡のような趣さえ漂わせていた。
「そういえば、訊いてなかったな。なんで橋を渡りたいんだい? 北に探し人でもいるのかい」
 車体を押しながら、キノンが尋ねた。石畳に車輪は揺れ、キノンも揺れ……。
 センリは虚ろな視線で、橋の向こうを眺めていた。北へ北へ真っ直ぐに伸び、空と海との狭間に飲まれ……。
「探し人……。そう、なるのかな」
 うつむき、嘲笑に似た笑みを浮かべ、
「悪魔を探しているの」
「悪魔?」
 キノンは訝しげな様子で振り返った。
「うん、信じないよね」
「…………」
 車体が止まった。ガタガタという音が途絶える。キノンが歩みを止めたのだ。
「話してごらん」
「……自分でも、まだ夢だったと思ってる話なんだけど」
 センリは重苦しそうに顔をゆがめた。そして、決心したのか顔を振り、口を開いた。
「私、もう何年もしないうちに死んじゃうの」
「…………」
「親もきょうだいも、みんな殺された」
「悪魔……」
「そう。よく覚えてないんだけど。私が呼び出してしまったみたい。気がついたらすべてが終わっていた。私だけが生き残った。心を抜かれて」
「あたしにゃ、普通の子にしか見えないけど」
「魔女に助けてもらったの」
「それは……。まあ、悪魔がいれば魔女もいるのか」
 あきれたようにキノンは呟いた。信じていない様子ではない。
「悪魔は私に呪いをかけた。何年か後に、見つけられなければ……。だから」
「悪質な鬼ごっこだな。いや、かくれんぼといったほうが近いのか。で、どこにいるのか検討はついてるのかい?」
 キノンは再び二輪車を押し、背中越しに尋ねた。
「この大陸にいるって。そして今度は北にいるって……」
「曖昧だな。あの情報屋に聞いたんだっけか? あいつは胡散臭いからね。でも腕は確かなはずだが……。そうか、曖昧になっちまうほどに恐ろしい悪魔ってわけか」
 うつむくようにセンリは頷いた。
 黙々と二人は歩く。こつこつ、ガタガタ。波と風の静かな伴奏に、二人が奏でる音はどこか異質で、いびつだった。
「誰も……いないね」
「ああ。これだけ長いんじゃね。車なんて、ほとんどのところじゃ伝説扱いだし」
「でも、何日もかければ渡れるんじゃない?」
「……さてはて。かつて同じ考えを抱き、野宿しながら渡ろうと試みた人がおりました。その人はどうなったでしょう」
 センリは突然の問いに逡巡する。
「え、それって……渡れなかったんだよね」
「そういうことになるな」
「石畳が固くて寝ることができなかった、とか……違うよね」
 恥ずかしげにうつむき、笑った。キノンは表情を崩すことなく、西を向いた。橋の淵より大海が覗く。地平線は弧を描き。この星が丸い形をしていると教えてくれる。
 風は穏やか。海は眠るように静か。橋を超えるのに何の妨げも無い。
 しかし、キノンは言った。
「高潮だよ」
 と。
「宿をとったやつらは、あらかた波に飲まれ、海に喰われて行方不明だ。誰も渡ろうとは思わないわけだわな」
「でも、こんなに波は穏やかなのに」
「悪魔に、魔女に会ったお前さんがそれを言うのかい? この世に起こっておかしいことなんざ、なにもないんだよ」
「…………」
「まあ、信じられないのも無理はないか」
 キノンは橋の際まで寄ると、下を見下ろした。センリもそれにならう。
 橋脚の根元は、海面の近くでぼやけてよく見えない。それほど高い場所に二人は立っていた。高潮など、あっても届くはずはない。
「だけど、実際に人はそれを恐れて、渡ることをやめた」
「私たちは大丈夫なの?」
 踊るように足を大きく振り上げ、キノンは石の地面を叩き歩く。直立し、
「やられちゃうかもね」
 何か悪いことでもたくらんだような顔で振り返るキノンを、センリは黙って見つめていた。
「はは、そんな怖い顔するなって。あと数時間もすれば走れるようになる」

 陽は傾く。ゆっくりだが確実に。空の色はほのかにその色合いを変えていく。群青から、すこし赤みがかった色に。まるで、血を一滴ずつ混ぜていくかのように、刻々と。
 歩けど歩けど、動いているのは太陽と二人の旅人のみ。
 鳥たちの歌も聞こえない。
 風は凪ぎ、波音も静まる。橋を叩く波の打楽器。眼鏡を半分に切っていくつもつなげたような穴を、風が吹きぬけ奏でられていた管楽器。自然の奏者が逃げてしまったのか、橋の上の音楽会。席もない観客席で、石を叩く音だけが空気を揺らす。
 こつこつ。
 ガタガタ。
 無骨な演奏。されど、そこに声が加わる。歌ではなかったが……。
「こんな長い橋、造るのにどれだけかかったんだろうかね」
 キノンは目を細めた。曲がることを恐れるように、真一文字に道はつづく。
「何日も、何ヶ月も、何年も。造っては壊され、造っては壊され」
「完成したけど誰も通らない」
「だけど、あたしらはこうして渡っている」
「…………」
「あんたは、例の性根の腐ったあんちくしょうに会いたい。でもそれが怖い。違うか」
「……ちがう」
「本当は会いたくないんじゃないか」
「違う!」
 張り上げた声がこだまする。いったいどこに反響するものがあるのやら。
 キノンは二輪車の車止めをさげ、身体をもたせかけた。うっすらと笑みを浮かべ、空を見上げた。
「たどり着けるさ。この橋が造られたように。あせらなけりゃ確実にね。そしてあんたはそれを望んでいる。別に、あたしがこんな話降る必要なんざ、ないってわけだ」
「…………」
「でも」キノンはセンリを横目で見やった「あたしにゃ、あんたが旅してる理由がわからない。ただ流れるに従ってるようにしか思えない。悪魔という死に場所を求めているようにしか、ね」
 うつむき押し黙ったまま。小さな旅人の腕は、かすかに震えていた。
 大きく手を広げ、キノンは橋を闊歩する。受け止める風もないのに。そうしながら、独り言のようにつぶやいた。
「風が気持いいねぇ。こんな弱弱しい力じゃ、あたしは飛ばされない。だけど、そうだ。足があるじゃないか」
 パタンと腕をたたむ。センリを背に、
「東か西に歩けば道はない。落ちて、風を感じりゃ気持いいだろうなぁ。そうして、海に溶けるんだ。そうすりゃ、すべて終わる」
「何が……言いたいの?」
「なるほど。センリという一人の人間は、けなげで、かわいそうで、とんでもない不幸なお人だ。かといって、そいつをひっくり返そうという気概を持つでもなし。ただ、死に場所を求めてさまよう。さながら、流浪人ってとこか。
 落ちて、堕ちて、墜ちて、零ちて、隕ちて、墮ちて、殞ちて…………
 おちるところまでおっこちたんなら、あんたはこうして、旅することさえできなかったはずさ」
 二輪車に近寄り、車止めを蹴り飛ばした。飛び乗り、二またのとってをまわした。車体からうなり声が轟いた。
「乗るか、乗らないか、二択だ。あんたが決め、あんたの足で進め。あたしはその途中の、単なる運び屋だ、運ぶことだけが仕事なんで、さっきのはただの独り言ってことさぁ。
 ふふ、喋りすぎちまったね。さて、このときだけの定期便は、あと数十秒ほどで発車いたします。お乗りの方はお急ぎください」
 キノンはそこに誰もいないように振舞った。前を向き、ただ待った。そして、彼女の後ろに人が乗る気配があった。
「泣いているのかい」
「わからない」なおもポツポツと雨を降らせながら、「この感情がなにかなんて。ただ、胸からなにかがこみ上げて。水が零れていく……」
「そうかい」
 それ以上なにも言わず、キノンは二輪車を走らせた。


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掲載しているものは、主に百合もの、ファンタジー小説となっております。
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