二〇一三年 四月 読書記録と百合姫に対するエトセトラ
05 02, 2013 | Posted in 小説 | Thema 小説・文学 » 書評
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最近この記事ばかりになっておりますが、現在書いている作品がゴールデンウィーク明けか、できればその前までに公開できると思いますので、お待ちくださいませ。
さて、4月は過去4度目のインフルエンザにかかったこともあり、ある程度のまとまった時間を得、8冊読むことができました。
『ニーナとうさぎと魔法の戦車』はとにもかくにも4巻ですね。『あまいゆびさき』も百合小説としての濃厚さは、近年の作品の中でも断トツのものでした。しかし、百合姫の売り方はいささか問題があるように思えます。というのも、本誌上であった挿絵は単行本になってからは皆無。しかも1500円という、なんとも手を出しづらい値段。漫画でさえ1000円と、ただでさえ高いのにこれですからね。作家の宮木あや子さんは、百合小説を書かれる方としても有名で、例えば普通の文庫で出したとしたら、もっと売れるはずでしょうに、残念でならないのです。
話は変わりますが、百合姫の漫画作品は良作が多いことは多いのですが、短編ばかりで、どうしても物語が単調になってしまいます。値段も邪魔して、結局好きな作家さんの作品しか買わないという自体になります。かつては百合姫Sという、別の受け皿があったので、作品の幅も豊富だったのですが、今はどうも方向性を見失ってるような気がします。例えば、有名な百合作品として『青い花』、『GIRL FRIENDS』、『ささめきこと』などがあります。これらはいずれも学園ものの百合作品という、百合姫にもよくある類なのかもしれませんが、連載されている期間の長さが違います。ネームバリューも、百合姫における純愛百合作品のいずれにも勝っているといえるでしょう。
百合姫の問題は、このような長期連載している看板たる純愛百合作品がないことにあると思われます。たとえ連載しても、単行本1,2巻程度で終わってしまう。これでは、どの作品に注目すれば良いの、という指針を読者が見失ってしまうことになります。
現在の百合姫における一応の看板作品は『ゆるゆり』と『百合男子』ということになるでしょう。この作品を一言で申し上げれば、異端と表現できるでしょう。後者は言うまでもありませんが、どちらも百合ではなく、どちらかというとギャグを重視している印象があります。作品に対する悪意はありません。これらの作品が看板となっている自体が問題であるということです。とはいえ、私達になにができるかと言ったら、こんな感じに不満を表明するくらいしかないのですが。はぁ、青い花のアニメ二期が見たい。
まぁ、百合姫を糾弾するわけではありません。事実今の路線で売上を上げていることでしょう。それが今後どういった結果をもたらすかわからない今、良いか悪いかの二元論で語ることはできません。ただ、個人的な不満があって、この場を借りて愚痴を述べただけなので、あしからず。
と、落ちのない長話をしてしまいました。他にも注目すべき作品を一つピックアップしましょう。『永遠の0』です。0というのは、零戦という戦闘機からきています。現在の視点からみた過去の戦争を見直すお話。ということで、史実に沿った作品なのかというと、そうでもあり、そうではありません。この作品で主に語られる宮部久蔵という人物は、実は架空の人物で、戦時の背景をもとに、他の人物の視点から彼の生き様が語られるというものです。
読んでまず思ったのは、これは日本人全員が読むべき作品だ、ということ。それほどにこの作品に込められた意味合いは強いものとなっております。今まで学んで来た歴史の実に浅いことか、こんな大事なことを知らなかったのか、と恥じさえしました。零戦は、登場時は他の国の戦闘機を凌駕する性能を有していたこと。では、なぜ日本は負けたか。それは日本軍が、優秀なパイロットを、無謀な作戦で失わせてしまったこと。勝機におけるあと一手を惜しみ、敵の反撃に屈したこと。何よりも特攻という十死零生の馬鹿げた作戦を最後まで貫いてしまったこと。あれほどのひどい敗戦へと、日本を零落させた理由が如実に描かれています。
例えば兵站すなわち食料などの供給が重要であることは、経営に応用できるといいいます。例えば、撃墜されても、生き残り経験を積み、熟練したパイロットとなることは、かつての安倍政権が提唱した再チャレンジの精神にも通じます。これはほんの一例。この作品の中には、現代の私達への問いかけが多く含まれています。
歴史を学ぶ意味が、この作品にこめられているのです。
興味ありましたら是非ご一読を。
余談ですが、本作でも登場する坂井三郎という人物は、実は『ストライクウィッチーズ』の坂本少佐のモデルとなった人なんですよね。本作を読めば、なぜ眼帯をしているのかわかります。今度は坂井三郎の『大空のサムライ』を読んでみたいと思っています。
2013年4月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2458ページ
ナイス数:67ナイス
夜行観覧車 (双葉文庫)の感想
時系列が行ったり来たりして、ちょっと理解が追い付かなかった。結局夜行観覧車というタイトルにした理由がはてな。人間関係は、とてもリアルに描かれていて、そこは魅力でした。ドラマは設定が違うみたいなので、見たかったのですが、再放送、あるかなぁ。
読了日:4月4日 著者:湊 かなえ
私の家では何も起こらない (文庫ダ・ヴィンチ)の感想
物語、というよりも雰囲気を楽しむ小説。不気味な情景に酔うことができたのなら、この本を読むことに成功したということなのだけど、私はそこまでハマれなかったかな。ただ、幽霊とデジャ・ビュの対比はなるほどと思えた。私達の見る既視感は、もしかしたらこの世のモノではないものが見せる記憶なのかもしれない。
読了日:4月8日 著者:恩田陸
永遠の0 (講談社文庫)の感想
家族に勧められ、最初は面白いのかなと、半信半疑で読んでいました。ただ、読み終えた後は、この本に出会えて本当に良かったと、心から思えました。日本がかつて、他を圧倒する零戦という、奇跡のような戦闘機を扱っていたこと。多くの勝機がありながら、馬鹿げた官僚的思想によって、多くの命が無下に散っていってしまったこと。その中には自分の知らない知識も多々あり、それが恥ずかしく感じます。宮部さん自体はフィクションですが、それでも、心から死んで欲しくなかった。そう心の中で悔やみながら何度も泣いてしまいました。
読了日:4月17日 著者:百田 尚樹
ニーナとうさぎと魔法の戦車 2 (ニーナとうさぎと魔法の戦車シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)の感想
ラビッツの面々の会話がやっぱり好き。それだけにメインじゃなかったのが残念でした。前作が完全真っ黒な悪役としたら、今作は悪役だけどその裏に正義があるという、少し考えさせられる部分があるのは好印象。家族との再開が、今作の主軸なのでしょうが、2巻でやる必要あったかなぁ、とは思います。というのも、戦車戦もっと見たかったんだよー! ともあれ、人々の弱い面を描くのが上手い作者と、開拓民の描写を見て感じました。3巻も期待しています。
読了日:4月18日 著者:兎月 竜之介
ニーナとうさぎと魔法の戦車 3 (ニーナとうさぎと魔法の戦車シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)の感想
1・2巻がここに繋がっていたのかと、1巻読んで間を開けたことを後悔。ニーナの正妻アリスが登場して、百合的にはこれからといったところでしょうか。重い過去を背負ったアリスを、顔色一つ変えず受け入れるラビッツの面々が心強いですね。どうでもいいけど、ヴォルフさんにはもうちょっと悪役として頑張って貰いたかったかも……。
読了日:4月19日 著者:兎月 竜之介
あまいゆびさきの感想
百合姫本誌で断片での思いでしかなかったのですが、こうして連作として一気に読むと、やはり違いますね。波瀾万丈という言葉がここまで似合う物語もないでしょう。立場も境遇も違う二人が引き離され、またである。運命なんて簡単な言葉で表せられない暗い深く絡まりあった糸が、あの結末までノンストップまで運んでいく。百合だけでなくセクシャルマイノリティ全体を扱った、革命のようなお話でした。唯一残念なのが、相変わらず高価格で挿絵皆無ということ。いいはなしなのに、本当にもったいないなぁ。
読了日:4月21日 著者:宮木 あや子
ニーナとうさぎと魔法の戦車 4 (ニーナとうさぎと魔法の戦車シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)の感想
一番の見所はやはりエルクーですが、ニーナ、アリスののろけも堪能しました。前々から、百合巻であることは存じていましたが、実際に読んでみて、よくこんな描写入れてくれたなと、心の中で拍手万歳。それ以外の感想が吹っ飛んでしまうくらい濃厚でした。ただ、ストーリーも面白いはずなのに、どうも引きこまれませんでした。コメディー部とシリアス部のメリハリが曖昧なのと、エミリアの想いがあんな簡単にひっくり返されたことが、心情的な深みを描ききれなかったのだと感じさせたのだと思います。
読了日:4月26日 著者:兎月 竜之介
イン・ザ・プール (文春文庫)の感想
人が常々抱える不安を極端に膨張させ、それを精神科医の伊良部が、治療らしき行為によって救う話。『空中ブランコ』から入りましたが、このシリーズは純粋に読んでて面白い。中には、どうしようもないテーマもあるのですが……。よく考えると身近なテーマが多く(2話は除く!)、読みはじめたときは、自分まで不安になるのですが、読了後はしっかりそれも解消。私達も伊良部一郎に救われているのかもしれません。
読了日:4月29日 著者:奥田 英朗
読書メーター
さて、4月は過去4度目のインフルエンザにかかったこともあり、ある程度のまとまった時間を得、8冊読むことができました。
『ニーナとうさぎと魔法の戦車』はとにもかくにも4巻ですね。『あまいゆびさき』も百合小説としての濃厚さは、近年の作品の中でも断トツのものでした。しかし、百合姫の売り方はいささか問題があるように思えます。というのも、本誌上であった挿絵は単行本になってからは皆無。しかも1500円という、なんとも手を出しづらい値段。漫画でさえ1000円と、ただでさえ高いのにこれですからね。作家の宮木あや子さんは、百合小説を書かれる方としても有名で、例えば普通の文庫で出したとしたら、もっと売れるはずでしょうに、残念でならないのです。
話は変わりますが、百合姫の漫画作品は良作が多いことは多いのですが、短編ばかりで、どうしても物語が単調になってしまいます。値段も邪魔して、結局好きな作家さんの作品しか買わないという自体になります。かつては百合姫Sという、別の受け皿があったので、作品の幅も豊富だったのですが、今はどうも方向性を見失ってるような気がします。例えば、有名な百合作品として『青い花』、『GIRL FRIENDS』、『ささめきこと』などがあります。これらはいずれも学園ものの百合作品という、百合姫にもよくある類なのかもしれませんが、連載されている期間の長さが違います。ネームバリューも、百合姫における純愛百合作品のいずれにも勝っているといえるでしょう。
百合姫の問題は、このような長期連載している看板たる純愛百合作品がないことにあると思われます。たとえ連載しても、単行本1,2巻程度で終わってしまう。これでは、どの作品に注目すれば良いの、という指針を読者が見失ってしまうことになります。
現在の百合姫における一応の看板作品は『ゆるゆり』と『百合男子』ということになるでしょう。この作品を一言で申し上げれば、異端と表現できるでしょう。後者は言うまでもありませんが、どちらも百合ではなく、どちらかというとギャグを重視している印象があります。作品に対する悪意はありません。これらの作品が看板となっている自体が問題であるということです。とはいえ、私達になにができるかと言ったら、こんな感じに不満を表明するくらいしかないのですが。はぁ、青い花のアニメ二期が見たい。
まぁ、百合姫を糾弾するわけではありません。事実今の路線で売上を上げていることでしょう。それが今後どういった結果をもたらすかわからない今、良いか悪いかの二元論で語ることはできません。ただ、個人的な不満があって、この場を借りて愚痴を述べただけなので、あしからず。
と、落ちのない長話をしてしまいました。他にも注目すべき作品を一つピックアップしましょう。『永遠の0』です。0というのは、零戦という戦闘機からきています。現在の視点からみた過去の戦争を見直すお話。ということで、史実に沿った作品なのかというと、そうでもあり、そうではありません。この作品で主に語られる宮部久蔵という人物は、実は架空の人物で、戦時の背景をもとに、他の人物の視点から彼の生き様が語られるというものです。
読んでまず思ったのは、これは日本人全員が読むべき作品だ、ということ。それほどにこの作品に込められた意味合いは強いものとなっております。今まで学んで来た歴史の実に浅いことか、こんな大事なことを知らなかったのか、と恥じさえしました。零戦は、登場時は他の国の戦闘機を凌駕する性能を有していたこと。では、なぜ日本は負けたか。それは日本軍が、優秀なパイロットを、無謀な作戦で失わせてしまったこと。勝機におけるあと一手を惜しみ、敵の反撃に屈したこと。何よりも特攻という十死零生の馬鹿げた作戦を最後まで貫いてしまったこと。あれほどのひどい敗戦へと、日本を零落させた理由が如実に描かれています。
例えば兵站すなわち食料などの供給が重要であることは、経営に応用できるといいいます。例えば、撃墜されても、生き残り経験を積み、熟練したパイロットとなることは、かつての安倍政権が提唱した再チャレンジの精神にも通じます。これはほんの一例。この作品の中には、現代の私達への問いかけが多く含まれています。
歴史を学ぶ意味が、この作品にこめられているのです。
興味ありましたら是非ご一読を。
余談ですが、本作でも登場する坂井三郎という人物は、実は『ストライクウィッチーズ』の坂本少佐のモデルとなった人なんですよね。本作を読めば、なぜ眼帯をしているのかわかります。今度は坂井三郎の『大空のサムライ』を読んでみたいと思っています。
2013年4月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2458ページ
ナイス数:67ナイス

時系列が行ったり来たりして、ちょっと理解が追い付かなかった。結局夜行観覧車というタイトルにした理由がはてな。人間関係は、とてもリアルに描かれていて、そこは魅力でした。ドラマは設定が違うみたいなので、見たかったのですが、再放送、あるかなぁ。
読了日:4月4日 著者:湊 かなえ

物語、というよりも雰囲気を楽しむ小説。不気味な情景に酔うことができたのなら、この本を読むことに成功したということなのだけど、私はそこまでハマれなかったかな。ただ、幽霊とデジャ・ビュの対比はなるほどと思えた。私達の見る既視感は、もしかしたらこの世のモノではないものが見せる記憶なのかもしれない。
読了日:4月8日 著者:恩田陸

家族に勧められ、最初は面白いのかなと、半信半疑で読んでいました。ただ、読み終えた後は、この本に出会えて本当に良かったと、心から思えました。日本がかつて、他を圧倒する零戦という、奇跡のような戦闘機を扱っていたこと。多くの勝機がありながら、馬鹿げた官僚的思想によって、多くの命が無下に散っていってしまったこと。その中には自分の知らない知識も多々あり、それが恥ずかしく感じます。宮部さん自体はフィクションですが、それでも、心から死んで欲しくなかった。そう心の中で悔やみながら何度も泣いてしまいました。
読了日:4月17日 著者:百田 尚樹

ラビッツの面々の会話がやっぱり好き。それだけにメインじゃなかったのが残念でした。前作が完全真っ黒な悪役としたら、今作は悪役だけどその裏に正義があるという、少し考えさせられる部分があるのは好印象。家族との再開が、今作の主軸なのでしょうが、2巻でやる必要あったかなぁ、とは思います。というのも、戦車戦もっと見たかったんだよー! ともあれ、人々の弱い面を描くのが上手い作者と、開拓民の描写を見て感じました。3巻も期待しています。
読了日:4月18日 著者:兎月 竜之介

1・2巻がここに繋がっていたのかと、1巻読んで間を開けたことを後悔。ニーナの正妻アリスが登場して、百合的にはこれからといったところでしょうか。重い過去を背負ったアリスを、顔色一つ変えず受け入れるラビッツの面々が心強いですね。どうでもいいけど、ヴォルフさんにはもうちょっと悪役として頑張って貰いたかったかも……。
読了日:4月19日 著者:兎月 竜之介

百合姫本誌で断片での思いでしかなかったのですが、こうして連作として一気に読むと、やはり違いますね。波瀾万丈という言葉がここまで似合う物語もないでしょう。立場も境遇も違う二人が引き離され、またである。運命なんて簡単な言葉で表せられない暗い深く絡まりあった糸が、あの結末までノンストップまで運んでいく。百合だけでなくセクシャルマイノリティ全体を扱った、革命のようなお話でした。唯一残念なのが、相変わらず高価格で挿絵皆無ということ。いいはなしなのに、本当にもったいないなぁ。
読了日:4月21日 著者:宮木 あや子

一番の見所はやはりエルクーですが、ニーナ、アリスののろけも堪能しました。前々から、百合巻であることは存じていましたが、実際に読んでみて、よくこんな描写入れてくれたなと、心の中で拍手万歳。それ以外の感想が吹っ飛んでしまうくらい濃厚でした。ただ、ストーリーも面白いはずなのに、どうも引きこまれませんでした。コメディー部とシリアス部のメリハリが曖昧なのと、エミリアの想いがあんな簡単にひっくり返されたことが、心情的な深みを描ききれなかったのだと感じさせたのだと思います。
読了日:4月26日 著者:兎月 竜之介

人が常々抱える不安を極端に膨張させ、それを精神科医の伊良部が、治療らしき行為によって救う話。『空中ブランコ』から入りましたが、このシリーズは純粋に読んでて面白い。中には、どうしようもないテーマもあるのですが……。よく考えると身近なテーマが多く(2話は除く!)、読みはじめたときは、自分まで不安になるのですが、読了後はしっかりそれも解消。私達も伊良部一郎に救われているのかもしれません。
読了日:4月29日 著者:奥田 英朗
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